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41部分:エリザベートの記憶その十九
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エリザベートの記憶その十九

「この一撃で、決める」 
 その照準はクンドリーの額に向けられていた。
「そしてヴェーヌスを」
「ヴェーヌスは、渡さぬ」
 クンドリー、いやクリングゾルの顔が歪んだ。
「これは。私の妻となる為に作られたのだ」
「何っ!?」
 それを聞いたタンホイザーとジークフリートの動きが止まった。
「今何と」
「ヴェーヌスは。作られたものだ」
「どういうことだ、それは」
 二人はクリングゾルに問うた。
「作られただと」
「では彼女は」
「卿等が知っても意味のないことだ」
 クリングゾルは二人が戸惑いを見せた間に剣を構えなおした。
「どのみちな。そして」
 その剣をゆらりと動かしてきた。
「私を侮ると。どういうことになるのか教えてくれる」
 そう言うと剣を派手に振り回してきた。そしてその光で二人を襲う。
「ムッ!」
 だが二人はそれをかわしていく。やはりクンドリーの身体では無理があった。
 しかしその中の一つが艦橋にある鏡の壁にあたった。それが光を跳ね返した。
「ヌッ!」
 これはクリングゾルにとっても計算外のことであった。その光はタンホイザーにもジークフリートにも向かわずクリングゾルの方に返って来た。そしてそれは思わぬ悲劇を生み出した。
 光がクリングゾルを襲う。だがそれはクリングゾルではなくヴェーヌスを襲った。そして彼女の身体を朱に染めた。
「ヴェーヌス!」
 タンホイザーは叫んだ。だが彼女は今クンドリーの腕の中にあった。そしてそこでその顔を蒼白にさせてしまっていた。
「馬鹿な、この様な」
 それを見たクンドリー、いやクリングゾルの顔にも狼狽の色が浮かぶ。
「ヴェーヌスを。撃ってしまうとは」
 その顔から狼狽と驚愕が見てとれた。明らかに彼の思わぬことであった。
「クリングゾル様」
 そのせいであろうか。クンドリーが心を戻した。そしてクリングゾルに話しかけてきた。完全に女の声であった。
「どうした」
 クンドリーの姿を借りたままそれに応える。この時は男と女、同じ声であった。
「ここは下がられた方が宜しいかと」
「何故だ」
「戦局は最早我等にとって覆せぬものです」
「だが」
「それにこの二人が相手では。私の身体では分が悪うございます」
「退けというのか」
「はい」
 彼女は答えた。
「ヴェーヌス様のことは。残念ですが」
「・・・・・・わかった」
 彼は熟考したうえで返答した。
「ではここは撤退する。ラインゴールドも放棄だ」
「はい」
「クンドリー、卿も退くのだ。よいな」
「畏まりました、それで」
「私は先に帰ろう。ではな」
「はい」
 クリングゾルの思念が消えた。そしてクンドリーも後ろに跳び退いた。その際血塗れになったヴェーヌスの身
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