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野槌
第四章

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「山にいる妖怪がですか」
「大阪にいたみたいです」
「妖怪は否定しませんが」
 妖怪や幽霊の話がとかく多い八条学園の中にある八条大学にいたからだ、涼子も妖怪の話は否定出来なかった。彼女自身大学の中で一度幽霊を観ている。ふとトイレで観たのだ。
「しかし」
「それでもですか」
「はい、とてもです」
 到底と言うのだった。
「山にいる妖怪が大阪の中にいるなんて」
「私も信じられないわ」
 小百合もこう友香に言った、実際にそうした顔になっている。
「山にいる妖怪が大阪の中にいたなんて」
「けれどそうでもないと」
「説明がつかないのね」
「このことは」
 そうだというのだ。
「あの姿は明らかに妖怪のものだから」
「そうなのね」
「ええ、ツチノコ以上に信じられないことになったけれど」
 友香は小百合には友人に対する口調で述べた。
「それでもね」
「動画ではね。三人共同じものを映してるから」
「だからね」
「山にいる野槌という妖怪としか」
「結論は出ないわ」
「若しかして山にいる妖怪ということは」 
 涼子はここでこう言った。
「私達の固定観念で」
「実はそうとも限らない」
「そういうことですか」
「そうかも知れないですね、妖怪には人間の固定観念なぞ意味がないですから」
「そうですね、妖怪は妖怪」
「人間は人間ですし」
 二人も涼子のその言葉に頷いた、言われてみればだった。
「それならです」
「人間の固定観念が妖怪に通じる筈がないですね」
「野槌が山に棲む妖怪だという考えが人間の固定観念なら」
「そうであるとは限らないですね」
「そうですね。実際に野槌はいましたから」
 大阪市阿倍野区の公園にだ、このことは三人が撮影した動画にしっかりと映っているからだ。
「それなです」
「はい、野槌が大阪市にいた」
「このことが事実ですね」
 友香と小百合も頷いた、このことは八条大学に報告されたが生物研究室ではなく妖怪を扱う民俗学の方に報告されて貴重な資料となった。ただ涼子が学年主任にこのことを話すと学年主任は信じられないといった顔になった。ただし友香と小百合が既婚者だったことには学年主任はそれもあるだろうというごく普通の反応だった。


野槌   完


                  2018・5・27
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