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34部分:エリザベートの記憶その十二
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エリザベートの記憶その十二

「どうした」
「今アンスバッハに援軍が到着しました」
「そうか、いいタイミングだな」
 彼はそれを聞いてニヤリと笑った。
「これで四倍さ。さて、どうするかな」
「帝国軍の軍律は厳しいそうですな」
「クリングゾル=フォン=ニーベルングは冷酷で苛烈な男だ」
 タンホイザーは部下の言葉に応えて述べた。
「迂闊なミスに対しては厳しい」
「はい」
「処刑まではないだろうが。他にも冷徹な処罰があるだろうな」
 処罰といっても処刑だけではないのだ。流刑や強制労働等がある。クリングゾルの統治は徹底した法治主義で知られている。そこには情はなく、ただ苛烈さがあるだけであった。血の通った政治ではなかった。
「ではどうするでしょうか、彼等は」
「通信を入れろ」
 タンホイザーは一言述べた。
「通信を」
「そう、彼等にな。降伏勧告を伝えよ」
 静かな声でこう言った。
「降伏か。さもなくば」
「死か、ですか。果たしてどうするのか」
「それは彼等が決めることだ」
「彼等がですか」
「そうだ。どうでるかな」
 答えは暫くして返ってきた。帝国軍の一部の上級将校達が自害し、その他の者が投降したのである。これで戦いは終わりであった。
「意外な結末だな」
 タンホイザーは上級将校達の自害を聞いてこう呟いた。
「最後の抵抗を試みると思ったのだが」
「どうやら彼等は一斉に苦しみはじめたそうです」
「苦しんだ」
「はい。何か発作の様なものに襲われたそうで」
「発作!?」
 それを聞いてまた眉を顰めさせた。
「自害した全ての者がか」
「はい」
「有り得ないことだな」
 彼はそれを聞いて今度は首を傾げさせた。
「一体どういうことなのだ」
「何らかの薬の作用では」
「かもな。しかし一体」
 謎は消えはしなかった。また新たな謎が生まれる。だが今はそれに携わっている時ではなかった。この戦いにおいて勝利を収めたタンホイザーはラインゴールドへの道を確かなものとしたのであった。
「残るはラインゴールドだけですね」
「ああ」
 彼はアンスバッハにある惑星の一つナイゼンシュタインに駐留していた。そしてそこで休息をとっていた。
「いよいよだが」
「今ラインゴールドは我々以外からも攻撃を受けておりまして」
「ワルキューレか」
「はい、彼等もラインゴールドへの道を確保した様でございます」
「敵は同じというわけか」
 タンホイザーはそれを聞いて呟いた。
「彼等もまた敵であろうとも」
「帝国を敵とすることでは同じです」
 それを聞いてラインマルが言った。
「ですがその他では」
「そうだ。いずれそれもはっきりさせなければならないな」
「はい」
「ヴェーヌスのことも。何故彼等が」
「公爵」
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