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31部分:エリザベートの記憶その九
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エリザベートの記憶その九

「あの帝国きっての天才科学者と謳われた」
「そうです。彼もまたクンドリーという女を追っているらしくて」
「またクンドリーか」
 またしてもその名を耳にした。
「ジークムント=フォン=ヴェルズングが追っているという」
「はい、どうやら同一人物であるようです」
「ヴァルター=フォン=シュトルツィングのところにもいたそうだな」
「そうなのですか」
「ああ。この前小耳に挟んだ」
 彼は情報収集能力にも優れている。だからこうした話も聞いているのだ。
「あの女もまた何かと色々と動き回っているようだが」
「そういえばあの女に関して一つ気になる話があります」
「またか」
「はい。どうやらワルキューレもまた彼女を追っていたそうです」
「何故だ」
「どうやら。破壊工作を行われたらしくて」
「破壊工作を」
「はい。何でも首領であるジークフリート=ヴァンフリートの暗殺を狙い旗艦にテロを行おうとしたとか」
「大胆なことだな」
「それで彼女を追っていたそうですが」
「そうだったのか・・・・・・いや待て」
 タンホイザーはここであることに気付いた。
「追っていたのか、クンドリーを」
「はい」
「そうだったのか」
「何かあったので」
「わからないか。チューリンゲンでのことだ」
「チューリンゲンでのこと」
「あの時ワルキューレは急に我々の前に姿を現わしたな」
「はい」
「何の脈絡もなくだ。だが彼等には理由があったのだ」
「それは」
「そう、クンドリーだ」
 彼は言った。
「ワルキューレはクンドリーを追っていた。だからあの時チューリンゲンに姿を現わしたのだ」
「そうだったのですか。しかし」
「ヴェーヌスのことはわからない」
 タンホイザーもそこまではわかっていなかった。
「だが彼等がヴェーヌスを監禁しているのならば何としても奪還する」
「はい」
 言葉が強いものになっていた。
「受けたことには必ず礼をする。それがオフターディンゲン家の家訓だからな」
「わかりました。ただここで一つ妙な動きがあるのですが」
「妙な?」
「はい、帝国ですが」
 ヴァルターが言った。
「クリングゾル=フォン=ニーベルングがこちらの戦線に向かっているそうです」
「ニーベルングが」
 それを聞いたタンホイザーの表情が一変した。
「それは本当のことか」
「まだ未確認ですが」
「場所は」
「ラインゴールド星系です」
 ヴァルターはまた答えた。
「そこでこの戦線の総指揮にあたるようですが」
「我々とワルキューレに備えてか」
「戦略的にはそのようです」
 ヴァルターは落ち着いた声で述べる。
「他にも理由があるかも知れないですが」
「それだけで理由としては充分だな」
 タンホイ
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