ターン90 鉄砲水と小さな挽歌
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いにはなんて答えればいいのか、そもそも答えなんてものがある問いなのか。
そんなことはどうだっていい。この時、現が全てを賭けて僕と真剣に向き合っていたこの瞬間。彼女の問いかけに、僕は即答することができなかった。彼女とそれ以外の全てを天秤に載せ、どちらかを選ぶことが咄嗟にできなかった。そんな選択はしない、どちらも手に入れてみせる……そう啖呵を切ることすら、この時僕には思いつけなかった。
彼女にとってみれば、ここで言葉に詰まられるぐらいならばまだ断られた方が良かっただろう。僕が断りさえすれば、まだ割り切って戦うことができるはずだ。それで彼女の心が少しでも楽になることに気づいていたならば、僕は喜んでその選択肢を選べただろう。逆に、彼女の誘いに乗った場合。それはそれで、この先一生後悔を抱えたまま生きていくことにはなるだろう。それでも彼女だけはそこにいて、何もかもを捨てた僕の罪を2人で分かち合ってくれたはずだ。
「僕は……」
だけど、僕はこの時。どちらも選ぶことができず、第3の選択肢を示すこともできず、ただ言葉に詰まってしまった。無限にも思えるほんの数秒が過ぎ、ふっと現が笑う。その笑顔はこれまで見てきた彼女の笑顔の中では一番に寂しそうで、その諦念が含まれて……違う。僕が見たかった彼女の顔は、そんなものじゃない。僕は、そんな顔を彼女にさせたくなんて断じてない。
だけど、時間は決して巻き戻らない。ただ後悔だけをあとに残し、彼女の優しさがその隙間を埋める。
「……ううん、ごめんね、清明。変なこと聞いちゃって」
違う。謝るのは僕の方だ。誰よりも答えを欲しがっていた彼女に唯一答えを示せた僕が、その程度のことすら果たせなかった。全部僕のせいだ。そんな優しさをくれるぐらいなら、怒ってくれた方がよほどマシだ。
だからもう、そんな顔しないでよ。
「じゃあ、始めようか。私とあなたの、最後のデュエルを」
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