28部分:エリザベートの記憶その六
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エリザベートの記憶その六
「如何致しますか?」
「今は戦闘は避けよ」
タンホイザーはここでは冷徹に徹した。あくまで王の家臣としての自らを優先させた。
「撤退だ。陛下を御守りしてな」
「わかりました」
こうして彼は帝国軍と紫苑の海賊の戦闘をよそに戦場を離脱した。そしてヴェーヌスベルクに到着した。そこで彼は愕然とすることになったのであった。
「馬鹿な、そんな」
「いえ、残念ながら」
キチェに着いた彼を待っていたものは驚くべき報告であった。
「あの船の中でヴェーヌスがいたのか」
「はい」
部下達がそれに答えた。
「そうか」
表情は押し殺していた。
「どうされますか」
「今は市民と陛下のことをまず考えよ」
だが彼はここでも政治家としての判断を下した。
「宜しいのですか?」
「構わぬ」
彼は毅然とした声で答えた。
「よいな。今はそれどころではないのだ」
「ですが」
「卿等の言いたいことはわかる」
タンホイザーはそれでも言おうとする部下達に対して言った。
「だが。今は仕方のないことだ」
「わかりました。それでは」
「頼むぞ」
「はい」
こうして彼はまずはヴェーヌスベルク星系、そして市民や王達のことを優先させた。市民達の生活や経済活動を保障し、そして王には仮の王宮、自身の別荘に入ってもらった。そしてそこで安定を取り戻そうとしていた。
同時に軍事に関しても色々と手を打っていた。軍港を整備し、艦艇を修復したり、建造させたりしていた。そしてそれで周辺星系に偵察艦隊を送ったり等して情報収集に務めたのであった。
こうして暫く時間が流れた。ヴェーヌスベルクも民生も落ち着いてきた頃彼のもとに一つの情報が入ってきた。
「それはまことか」
彼は仮王宮にある自室で報告してきた武官であるビテロルフ=フォン=ヴォーゲルに顔を向けて問うた。
「はい、どうやら」
ビテロルフは畏まってそれに答えた。
「まさかとは思うが」
「正確なことはまだわかりませんが」
「彼等がか」
タンホイザーはそれを聞いて立ち上がった。そして窓の外を見る。
ガラスの向こうに夜空がある。そしてそこには無数の星達が瞬いている。彼はそれを見ながら言った。
「ワルキューレがか」
「はい」
ビテロルフは頷いた。
「どうされますか」
「今彼等は何処にいる」
「海賊なので本拠地も確かではないですが」
「この近くにいるのか」
「おそらくは」
ビテロルフは答えた。
「その証拠にこの辺りで帝国軍と度々戦闘を行っているとの情報があります」
「そうか。ではこの近辺で間違いないな」
「どうされますか」
「まずはより正確な情報を集めてくれ」
即断は下さなかった。彼はまずはさらなる情報収集に務めることにした
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