26 人間は、人間である。
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_「アンタ、珍しい客だよ。花くらい持ってきたんだろうねェ?」
お登勢は、気づいていた。
_「ねェよ。テメェの手向けの花でも欲しかったかァ?お登勢ェ。」
_「久しぶりに口訊いたと思ったら。第一声がそれかィ?相変わらず野暮な男だよォ。旦那と一緒に、ここで眠らせてくれるってならァ、ソイツァ悪くないかもしれないね。」
_「ガキが世話んなったらしいなァ。」
_「礼ならあのバカに言っといてくれ。と言っても、その世話したガキとやらに殺られちまったみたいだけどねェ。大層な孝行娘らしいねェ。自分を捨てたバカ親父の為に、田舎からこんなところまで来て、町のお掃除ときた。子ども一人の為に、お互いすっかり踊らされちまったもんだ
ねェ。歳は取りたくないもんだ。いや、アンタは踊ってやってるだけだったかィ。悪党次郎長も、今まで散々泣かせてきた娘にャァ勝てないかィ?」
_「お登勢ェ。この町から出ていけェ。もうじきここは戦争にならァ。あのガキが火種蒔こうが蒔くまいが、同じ事でィ。テメェに居られちゃァ、邪魔で仕方ねェんだよォ。」
_「どのみち、アンタが戦争を起こすつもりだったってのかィ。冗談でもこの人の前でそんな言葉、吐いて欲しくなかったねェ。岡っ引きに侠客、立場は違えど、アンタら二人でこの町守ってたのはもう、昔の話なのかねェ…。…次郎長ォ、女房子どもを捨ててまで、アンタがやりたかったこたは、こんなことだったのかィ?」
_「時代はもう、変わったんでィ。男立てなんぞじゃもう、何にも守れやしねェんだァ。テメェ一人を残して死んでいったコイツの様になァ。…もうテメェのやり方は古いんだよォ。目障りなんでィ。テメェも、辰五郎もォ。もうこの町にャァ居られねェ。この町はァ、この次郎長のものだァ。もう一度だけ言う。この町から出ていけェ。」
_「1つ頼めるかィ?四天王だ何だ勝手に呼ばれちゃいるがねェ、アタシゃ勢力なんてェ、1つたりとも持っちゃいない。アタシだけで終わりにしてよ。アイツら、何の役にも立たない、ただの…アタシの家族さ。」
_「ソイツがテメェの答えかァ?」
遠くに平子がいるのが確認できる。私と同じく、次郎長がどう出るのかを見に来たようだ。
最初は勢いよく刀を振り上げたが、よく見ると、手が震えていた。そりゃあそうだろう。愛した女を手にかけられるほど、その男は残酷ではない。まだ人の心を持っている。結局次郎長はお登勢に止めは刺さず、軽く斬るくらいで留まった。
そのことを確認した平子は、しばらくしてからその場を去った。
ポツリポツリと雨が降り始める。
雨よけの呪文を唱えた。
もうそろそろ銀時が来るだろう。
辺りを伺うと、着々とこちらに近づいてくる影がみえる。
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