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魔弾の王と戦姫〜獅子と黒竜の輪廻曲〜
第24話『暁のティッタ〜勇者が示すライトノベル』
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で分かっているはずだ。
悪いのはテナルディエ達であって凱ではない。
しかし、ヒトは心に燃え移った感情を沈めるために、憎悪の炎を別の場所(サイト)へ燃え移そうとする。

「??返してくれよ」

涙ぐんでいる力ない民の声。その実現不可能な要求に対し、凱の身体がぐらりと揺らぐ。

「あの日々を……返して!」

民は絶望の底辺にもがきながら叫ぶ。

「お兄ちゃんが勇者なら……僕の父ちゃんを返してよ」

トドメの一言だった。
次に凱の前に現れたのは、アルサスでの採掘作業の過酷労働で命を落とした者の息子だった。
長身の凱のひざ元を、幼い手でぽかぽかと叩く少年の非力な拳。
凱はハッとする。
ドナルベインの児戯な斬撃より、フィグネリアの鉄拳で頬を殴られた痛みより、アリファールをへし折られた衝撃より、いたいけな子供に悲しみを向けられたことのほうがとても痛撃(ショック)だった。
かつてアルサスを守り抜いた勇者が、守るべき民たちに虐げられる光景。
ディナントの地獄をかいくぐり、銀の流星軍を導いた勇者に対するアルサスの民の態度に、ティッタは愕然とした。

「ガイさん!ガイさん!」

炎上した民たちの感情を沈めるための言葉が見つからず、泣きそうな声でティッタは勇者の名を叫び続ける。

ブリューヌを混迷の時代から救うべく、死地から帰ってきた勇者への、あまりにも酷な出迎えだった。










―――――◇◆◇―――――










「あの……」

何十人目かの炎上を聞いた時、先ほどまで震えていた少女が、おそるおそる凱に声をかけてきた。
素朴な印象を与える少女。ティッタと同じくらいの印象を与える年齢だろう。無残に引きさかれ、泥まみれにさらされた服に恥じることなく、少女は凱に頭を下げる。

「ありがとう……ございます。助けてくれて――それに、お母さんの(かたき)をとってくれて」

炎上する罵声に身を焦がされながらも、凱にはぼんやりだが、清涼のごとき響きで聞こえてきた。
違う。俺は仇をとったんじゃない。
むしろ、君の仇は俺自身じゃないか。
俺がドナルベインを殺していれば、君のお母さんも命を落とすことはなかったんじゃないか。
そうツラツラと思うあまり、少女の言葉が凱の耳にうまく入ってこない。

「ごめんなさい。さっきの人たちが、その……間違っているとは思いません。気持ちがわかるんです。でも……」

一瞬のためらい――されど語るべきはお礼の言葉。

「それでも……お礼が言いたかった」

少女の真摯な言葉に、凱は心を揺さぶられる錯覚に見舞われた。
いっそのこと、憎しみの言葉をぶつけてもらいたかった。
君にはその権利がある。
俺を殺す権利が。

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