第24話『暁のティッタ〜勇者が示すライトノベル』
[5/24]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
で分かっているはずだ。
悪いのはテナルディエ達であって凱ではない。
しかし、ヒトは心に燃え移った感情を沈めるために、憎悪の炎を別の場所へ燃え移そうとする。
「??返してくれよ」
涙ぐんでいる力ない民の声。その実現不可能な要求に対し、凱の身体がぐらりと揺らぐ。
「あの日々を……返して!」
民は絶望の底辺にもがきながら叫ぶ。
「お兄ちゃんが勇者なら……僕の父ちゃんを返してよ」
トドメの一言だった。
次に凱の前に現れたのは、アルサスでの採掘作業の過酷労働で命を落とした者の息子だった。
長身の凱のひざ元を、幼い手でぽかぽかと叩く少年の非力な拳。
凱はハッとする。
ドナルベインの児戯な斬撃より、フィグネリアの鉄拳で頬を殴られた痛みより、アリファールをへし折られた衝撃より、いたいけな子供に悲しみを向けられたことのほうがとても痛撃だった。
かつてアルサスを守り抜いた勇者が、守るべき民たちに虐げられる光景。
ディナントの地獄をかいくぐり、銀の流星軍を導いた勇者に対するアルサスの民の態度に、ティッタは愕然とした。
「ガイさん!ガイさん!」
炎上した民たちの感情を沈めるための言葉が見つからず、泣きそうな声でティッタは勇者の名を叫び続ける。
ブリューヌを混迷の時代から救うべく、死地から帰ってきた勇者への、あまりにも酷な出迎えだった。
―――――◇◆◇―――――
「あの……」
何十人目かの炎上を聞いた時、先ほどまで震えていた少女が、おそるおそる凱に声をかけてきた。
素朴な印象を与える少女。ティッタと同じくらいの印象を与える年齢だろう。無残に引きさかれ、泥まみれにさらされた服に恥じることなく、少女は凱に頭を下げる。
「ありがとう……ございます。助けてくれて――それに、お母さんの仇をとってくれて」
炎上する罵声に身を焦がされながらも、凱にはぼんやりだが、清涼のごとき響きで聞こえてきた。
違う。俺は仇をとったんじゃない。
むしろ、君の仇は俺自身じゃないか。
俺がドナルベインを殺していれば、君のお母さんも命を落とすことはなかったんじゃないか。
そうツラツラと思うあまり、少女の言葉が凱の耳にうまく入ってこない。
「ごめんなさい。さっきの人たちが、その……間違っているとは思いません。気持ちがわかるんです。でも……」
一瞬のためらい――されど語るべきはお礼の言葉。
「それでも……お礼が言いたかった」
少女の真摯な言葉に、凱は心を揺さぶられる錯覚に見舞われた。
いっそのこと、憎しみの言葉をぶつけてもらいたかった。
君にはその権利がある。
俺を殺す権利が。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ