斬月編・バロン編リメイク
拝啓、美しい人へ
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ま行動に出た。ヘキサに言われた通りに、咲は最古参の運転手に頼み込んだ。天樹が生前に通っていた“施設”へ行きたい、理由は長兄の身が危ないからだとまくし立て、運転手に思いきり頭を下げた。
その運転手はヘキサの予測通り、郊外の特別な施設へのルートを知っていた。
咲はすぐに自家用車に乗って貴虎が向かった“施設”へ向かった。
郊外の雑木林を行くことしばし、一台の車が無人で停め置かれていた。運転手によると、あれは貴虎の私用車だという。
咲は単身、砂利道を駆け出した。
霧深い道を抜けると、目の前に廃墟が現れた。「沢芽児童保護院」の看板の上には、ユグドラシル系列のマーク。――ここで間違いない。
チェーンで封鎖された正門は、すでに人がこじ開けて通ったと思しき開き具合。咲もまたその正門の隙間を抜けて、荒れた建物の中に足を踏み入れた。
咲は不気味さを我慢して、薄暗い施設を、奥へ奥へと進んだ。
ふと、一つの開けっ放しのドアが目に留まった。正門と同じだ。そのドアにもまた木材の封印があり、それが破られた跡があった。
咲がそのドアの向こうを覗き込んだ時だった。
か細く、声がした。女の、掠れた呻き声。
咲は反射的に急傾斜の階段を駆け下りた。
散らかった地下室に出て、咲は、埃が積もった床に倒れる藤果を見つけた。
「おねーさん!!」
咲は藤果に駆け寄り、小さな体で精一杯、藤果の上体を少しだけ起こした。
藤果は顔中にエイリアンのような痣を何十本も浮かせ、苦しげに眉根を寄せて歯を食い縛っている。
(どうしよう、どうしよう。このまま藤果おねーさんが死んじゃったら。なにか、ないの。なにか、あたしにできること。どうしよう。だれか。ねえ、助けて。たすけてよ)
敵味方も損得勘定も、善悪さえもない。目の前で死にかけている人に何かしてあげたいのに何もできない。その過酷は、11歳の少女に涙を流させてもしかたないものだった。
咲は、泣いた。ごめんなさい、とくり返し言って、とにかく泣いた。
――流れた涙の滴は藤果の顔にいくつも落ち、滑って、彼女の唇を濡らした。
ぴく――藤果の指先がわずかに、動いた。
「ぅ……」
「おねーさん!?」
藤果がうっすらと瞼を開けた。
「おじょ、う、さま……どう…して…?」
「どうしてとか何でとかは長くなるから以下省略! それより、おねーさんはだいじょうぶなの? もう痛かったり苦しかったりしない?」
「あ、れ――? そういえ、ば…なんとも…治って、る?」
「よかったぁ…よかったよぉ…っ」
嬉し泣きする咲を、藤果が茫洋と見上げていた。
しばらくして、藤果が口を開いた。
「どうして、あなたが泣
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