生存戦 4
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ハインケルとエナによる呪文攻撃よりも、こちらのほうがよほど堪えたとみえる。スキュラは悲鳴をあげて苦痛に全身を震わせた。
すかさず追撃するジャイル。
数本の触手が壁となって立ちふさがるのを、力任せに斬りつける。
肉には弾力があり、剣にまとわりつくような感触だ。だがジャイルの剛腕と【ウェポン・エンチャント】によって切れ味を増した剣はやすやすと切り裂いた。
「痛い痛い痛い!」
別の触手が足をすくおうと、下から這い寄るもジャイルはとっさに飛びのき、剣を振り下ろす。
巨体に似合わぬ、俊敏な動きだ。
手応えあり。切断された触手はそれ自体が独立した生き物のように地面の上をのたうち回る。
「ああ、もうっ! マジウザい! あたしの物静かな友だち、ねじれた森の精霊よ、その男を抱きしめてちょうだい!」
スキュラの呼びかけに応じて木々の枝が、蔦が、草が、ざわりざわりと音を立てはじめた。
危機を感じたジャイルが飛びのこうとしたが遅かった。数えきれない量の蔦が背後から襲いかかり、手足に絡みついてしまったのだ。
振りほどこうとするが蔦の強度は高い。
たちまち縛り上げられて身動きを封じられた。
「お返しよ!」
触手の一本が鞭のようにしなり、ジャイルの胸を強打した。並の人間ならば肋骨の一、二本は折れていただろうか。生来の頑健さと【ボディ・アップ】による強化が、それを防いでくれた。
「《拒み阻めよ・嵐の壁よ・その下肢に安らぎを》!」
「《紅蓮の炎陣よ》!」
ジャイルの直接攻撃ほどではないが、ハインケルとエナの呪文攻撃はスキュラの動きを封じ、わずかだが確実にスキュラにダメージを与えている。
「てめぇらもウザいんだよ! あたしの一番好きな大親友、夜と恐怖の精霊よ、あたしの敵はあんたの敵よ!」
両腕を高く空に掲げ、精霊語で叫ぶとあたりが急速に暗くなった。スキュラを中心に黒い影が広がる。影は濃さを増して津波のようにハインケルとエナ。そしてジャイルの体を覆った。
漆黒の闇が視界をふさぐ。
「いやあァァァ!?」
一条の光すら差さない闇のなか、魂さえも凍てつかせるような絶叫が響く。
完全なる暗闇。それは眠りと恐怖を司る悪夢の精霊ナイトメアの腕のなか。
人類のもっとも古い感情、恐怖。そのなかでも暗闇に対する本能的な恐怖が心を砕く。
闇が晴れ、あたりに月の光がもどるとハインケルとエナは白目を剥いて倒れている。
スキュラはそれを見て満足げな笑みを浮かべていた。
「……それでおしまいか、化け物」
残ったのは、立っているのはジャイルただひとり。
乱れた呼吸をととのえつつ、剣を構え直す。
「しぶといのね。でも、足がふらついているわよ、立っているのがやっとっ
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