生存戦 4
[3/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
術による不意討ちを受けることになるだろう。
戦うにせよ逃げるにせよ、一度態勢を立て直して応戦する必要がある。相手に地の利のある水辺からはなれ、こちらは数の優位で立ち向かう。
突発的な惨事に動揺することなく、そのように考え、行動させたのはジャイルの体に馴染んだケンカ師としての経験のなせる業だ。
「あら、陸の上ならあたしに勝てるとでも?」
少女の顔に意味ありげな微笑が浮かんだ。その周囲を泳ぎ回っていた蛇たちがいっせいに水面に鎌首を持ち上げた。
「いいわよ、お望みとあれば陸の上で相手してあげる」
そう言うと少女が岸に寄ってきた。泳いでいる様子ではない。立ったままの姿勢で、腕も動かさすにまっすぐに進んでくる。
周囲を泳ぐ蛇たちはぴったりと少女に寄り添い、まるで彼女を護衛する兵士のようだった。
血まみれのベニアーノとルネリリオがその背後に引きずられている。まだ息があるのか、さだかではない。
先頭の蛇が岸に這い上がり、少女の体が水面から持ち上がった。その全身があらわになる。
「ひっ……!」
少女と蛇たちは一体だった。
少女には人のような脚がなく、代わりに六本の長い大蛇の首と、十数本の触手が生えていた。
イカやタコの吸盤の代わりに鱗が生えたかのような、おぞましくいやらしい触手が。
いつの間にか太陽は完全に沈み、月が出ていた。その月の光を浴びて妖しく煌めく鱗から水が滴り落ちる。
無数の触手が絡み合い、うねり、のたうちながら少女の上半身を陸地に押し上げた。
迎え撃とうと身構えていたハインケルとエナは声にならない悲鳴で喉を詰まらせ、思わず後ずさりした。凄まじい嫌悪感と恐怖に全身に悪寒が走る。
およそ現実の生き物とは思えない、悪夢のなかにしか存在しない怪物。
「スキュラ!?」
エナが悲鳴にも似た叫びをあげた。
スキュラ――。
上半身は美しい女性だが、下半身からは無数の大蛇の頭と触手を生やした魔獣。水陸両棲で地上でも自由に動き回れるが主に水中を好む。
性格は邪悪で水面から上半身だけを出して男を誘い、水中に引きずり込んで殺すといわれる。
また大蛇ではなく犬の頭を生やしたハウンドヘッドと呼ばれる亜種も存在する。
「そうよ。あたしってば有名人?」
水棲怪物スキュラはにっこりと笑うと、しなやかな触手をたくみにあやつって、ベニアーノとルネリリオの身体を草の上に放り出した。続いてもうひとりを水中から引きずり出して重ねて置いた。クライスだ。
「そんな、どうして!? この魔獣はもっと奥にしか出現しないはずよ!」
「今はそんなことを言っている場合じゃない。現実に遭遇してしまった以上、対処しないと。僕とジャイルで攻めるから、エナは支援を。ジャイルはやつの後方に回れ。挟撃
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ