斬月編・バロン編リメイク
流行ってます?
[2/3]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
だ。
碧沙は口を手で押さえたが、一度出した言葉は引っ込められない。
「――お前、室井じゃないな」
ばれた。完膚なきまでに完璧に。相手が駆紋戒斗であったのがせめてもの救いか。
「はい。わたしは咲じゃありません。あの、おどろかないで聞いてくださいね。ほんとのことしか言いませんから。わたし、ヘキサです、呉島碧沙なんです」
「……冗談にしてはタチが悪い」
「ですからっ。ほんとのことしか言わないって言ったじゃないですか」
値踏みとも睨みともつかない戒斗の視線を、碧沙は内心怯えつつも真っ向から受け止めた。
「……わかった。とりあえずお前は室井じゃない。これは認める。お前が本当にヘキサかどうかはこれから見極める」
「! はい! 信じてくれてありがとうございます!」
戒斗はベンチから立ち上がり、車道に出る道を歩き始めた。
カツカツ。てふてふ。
「おい――何で付いて来るんだ」
「え? 駆紋さん一人だとあぶなっかしいからですけど」
戒斗のことだ。どこへ行くにせよ、トラブルを起こしてザックやペコを心配させるに決まっている。ここは碧沙が戒斗を監督すべきだ。
「はあ……勝手にしろ」
「はい。勝手にします」
車道に出たので、脇の街路を碧沙は戒斗と並んで歩いた。
「ところで今日はどうされたんです? そのカッコ。いつものコスチュームじゃないんですか?」
「盗られた。今から取り返しに行く」
言葉少なな戒斗から、持ち前の粘り強さで聞き出したところによると――
戒斗は少し前に、何と彼と全く同じ顔をした男と出会い、催眠スプレーを嗅がされて気を失っている最中にチームユニフォームを盗られて、その男のスーツを着せられていた――と。
「それってリッパに犯罪ですよね……それにしても、駆紋さんにそんなことして、その人、こわいもの知らずってゆーかダイタンってゆーか」
自分と咲といい、戒斗とそのそっくりさんといい、この冬は入れ替わりが流行っているのだろうか?
「――――」
「あの、駆紋さん? わたしの顔になにか付いてます?」
「室井の顔で敬語なのも『さん』付けで呼ばれるのも異様にしっくり来ないと思ってな」
「あー、わかります。咲、男の人を『さん』とか『ちゃん』で呼ばないのがマイルールですから」
――その、他人からすれば拘り所でもなんでもないそれが、室井咲の固い自戒によるものだと、碧沙はよく理解していた。
キュキキィ!
すぐ横の車道で、碧沙にとっては見慣れた黒くて長い車が停まった。
黒い車から降りてきたのは、黒服の男が二人。
「お坊ちゃまっ」
黒服たちは戒斗に対してそう呼びかけた。お坊ちゃま。何とも駆紋戒斗に似合わない形容だ。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ