小説版鎧武における掌編
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キー自身にも判然としない。
(このロックシードを見れば、嫌でも思い出せる。あの雨の日。あたしたちは誰も舞を救えなかった。みんなが善かれと思ってしたことが全部裏目に出て、人間としての舞を終わらせた)
この品には生々しく昏い念を刻んである。
これはチャッキーにとって質量のある“死”。
――などと打ち明けたら、ペコは、ビートライダーズの仲間たちは、どんな顔をするだろう。
(女の子同士で仲がいいのは、何も咲ちゃんとヘキサちゃんに限った話じゃないんだからね?)
ガレージのドアが開いた。チャッキーはドアに背を向け、ヨモツヘグリを鞄に隠し、ザクロのロックシードをケースに納めてから、何食わぬ顔でふり返った。
〔三千世界に鴉が泣くなら〕
全ての者が世界に融け、狗道供界の意識とひとつになったはずなのに、そのノイズは確固として、融けずに形を保っていた。
“かわいそう……”
可哀想だと? 何が――誰が?
理解できないセイヴァーの中に、ひとつになった意識を通して、コトバに込められた意味が流れ込んできた。
“あなたが融和した三千世界には、戦いと涙しかなかったのね。三千と一つ目の世界にきっとある光に、あなたは辿り着けなかったのね”
“だいじょうぶ。死んでいるっていうなら、新しい息吹を吹き込むよ。からっぽな幽霊だって満たすくらいに愛してくれる神様を教えてあげる”
“この世は地獄なんかじゃない。だから、おねがい、未来を見て?”
セイヴァーは気づく。これは、あの日見た少女菩薩の、嘘偽りなき心だ。
(何と――遠い)
眩しすぎて、温かすぎて。供界には手を伸ばしても届かない。
「これで分かっただろう。世界はいつでも、明日を求める者に味方する」
目の前に男が立つ。
セイヴァーと同じ超越者。ヒトとしての肉体の束縛から解放された存在。須くヒトを超克しながら、“人間”として生きることを選んだ、セイヴァーからすればそれこそ理解できない男。
「……くもん、かいと」
もはやほとんどの自我を失ったセイヴァーは、男の名を呼んだ。
「あいつには夢がある。オトナになって、この街で、仲間たちと一緒に、たくさんの思い出を作りたい。夢と呼ぶにはあまりにもちっぽけな願いだがな。夢を見るということは、未来を見ているということだ。狗道供界。人類の救済は本当に貴様の夢だったのか?」
70億人を肉体の軛から解き放ち、全人類を救済し、それから?
なにも、思いつかない。
「―――――嗚呼」
嘆息。そして、落涙。
狗道供界に、夢は、ない。
見上げる。その行為は
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