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真田十勇士
巻ノ百三十六 堺の南でその九

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「一軍の大将となった、そしてじゃ」
「先の戦ではですな」
「見事夜討ちも成功させて」
「そして功を挙げられた」
「だからですな」
「もう思い残ることはない」
「そうじゃ、ならばここでも思う存分戦いじゃ」
 そうしてというのだ。
「勝てば確かによいがな」
「散ってもですか」
「それでもよい」
「それで、ですか」
「今からですか」
「先陣の先頭を務められ」
「果敢に戦われますか」
「首を取られるならよい」
 それでもというのだ。
「しかしな」
「取られぬならですな」
「あくまで戦い続ける」
「そうされますな」
「そうじゃ、わしの武運に賭ける」 
 こう言いつつ先陣のさらに先頭を駆け続けるのだった。
「このままな」
「わかりました、ではです」
「我等もその塙殿に続きます」
「それもまた武士の道」
「そう思います故に」
「済まぬな、わしは一軍の将となれ功も為せた」
 加藤義明が出来ぬと言ったそれがというのだ。
「ならば死んでも構わぬ、生きているならそれまでよ」
「では我等も」
「お供致しますぞ」
 塙の心意気に打たれてだった、彼が率いる者達はそのまま浅野家の軍勢に突き進む。そうしてそのまま敵軍と会ってもだった。 
 塙は進み続けた、その彼を見た浅野家の者達は思わず唸った。
「まさにこのままか」
「突き進んでくるか」
「見事なよ、ならばな」
「我等も相手をしようぞ」
「さあ、命が惜しくないなら来られよ」
 塙はその彼等に大音声で叫んだ。
「思う存分戦おうぞ」
「そう言うか、ではな」
「我等も相手をさせて頂く」
「そしてそのうえで」
「その首挙げさせてもらおう」
 浅野家の名のある者達が応え塙に向かった、塙は思う存分戦いそうしてだった。一軍の将として散ったのだった。
 その報を受けてだった、治房は苦い顔で報を届けた旗本に問うた。
「それで軍勢は」
「はい、退くことが出来ております」
「兵はどれだけ失ったか」
「それ程は」
 失っていないとだ、旗本はこのことも答えた。
「失っていませぬ、しかし」
「戦にはじゃな」
「敗れました」
 このことは間違いないというのだった。
「そして今こちらに退いております」
「そうか、ならばな」
「塙殿が率いておられたその先陣と合流し」
「退くぞ」
 こう言ってだった、治房は軍勢を退かせた。塙を失っただけでなく浅野家の軍勢を迎え撃つ戦にも敗れた痛い緒戦となった。
 その報を聞いてだった、幸村は難しい顔で言った。
「予想はしておったが」
「塙殿は倒れられましたな」
「残念ながら」
「そうなってしまいましたな」
「うむ、あの御仁は一騎駆けの方じゃ」
 塙の気質をよく知っての言葉だ。
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