暁～小説投稿ｻｲﾄ～:ソードアートオンライン無邪気な暗殺者──Innocent Assassin── 遠雷

暁～小説投稿ｻｲﾄ～

ソードアートオンライン無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

Alicization
～終わりと始まりの前奏～
遠雷
[4/5]

エンターキーを押す指が一瞬だけ躊躇するように、促すように止まった。まるで確定したら、それが規定された事象に固着化するように。

だが女性はそれを振り払うように強引にキーを押し込んだ。

【すべては、《匣庭(Hermetic Order)》へ引き継ぐ】

その文字をしばしの間眺めていた女性は、ふと顔をあげた。

声が、やんでいた。

目線を巡らせると、男は胎児のように丸まって床にうずくまっていた。

クリーニングロボが日に十数回往復するとはいえ、この研究室は基本的に土足だ。放っておけるほど自身が大らかではないと自覚がある女性は、しかし先刻までの様子があるので恐る恐る手を伸ばした。

言葉はない。だが、驚かそうという意思があろうとなかろうと、あらかじめ言葉をかけていようと、男は変わらず肩を震わせただろう。

振り返った男の顔に、表情という表情はなかった。まるで心電図の地平線のように、綺麗に欠落した表情だった。

気負いも、緊張も、未練もなかった。

だが、初めからなかったわけではない。

それらを全て擦り切れさせて、その上で空っぽになった男はただ、こう言った。

ポツリ、と。

うっかり零れ落ちたというよりは、何かの宣言のような形で、男は小さく口元を蠢かした。

「さぁ、やるぞ」

その言葉が転換点。

そんな単語が分岐点。

敗北に塗れ、汚泥を啜り、慟哭と泣き、絶望が同化した、そんなちっぽけな負け犬に異様な熱がこもり始める。

それは怨恨だったかもしれない。

それは憎悪だったかもしれない。

それは憤懣だったかもしれない。

それは傲慢だったかもしれない。

それは嫌厭だったかもしれない。

それは虚飾だったかもしれない。

それは侮蔑だったかもしれない。

けれどそれらを抑えていた希望はもう消えた。

不条理と理不尽と不合理に塗り潰された。

光あったからこそ走り続けていた男はついに、立ち止まった。

男は嗤う。

叡智に呪われ、運命の歯車に囚われた男は、悠遠の彼方を見通して。

仄暗い研究室。四方を囲う分厚い壁すら通り越し、世界に向けて嘲笑う。

「はは！ははぁは！！ははあっはははは！！ぎは、ぃひあは！！ひーはぃひひくひあひゃひああはははふはは！！ぎぃくきかひふいびぎははくきか！！！ぎびびぢぎぢきぎぎががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががが

[8]前話 [1]次 [9]前最後最初 [2]次話

※小説と話の評価する場合はログインしてください。

[6]

[0]目次に戻る

暁～小説投稿ｻｲﾄ～
利用規約/ﾌﾟﾗｲﾊﾞｼｰﾎﾟﾘｼｰ
利用ﾏﾆｭｱﾙ/ﾍﾙﾌﾟ/ｶﾞｲﾄﾞﾗｲﾝ
お問い合わせ

2024 肥前のﾎﾟﾁ