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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
Alicization
〜終わりと始まりの前奏〜
遠雷
[3/5]

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狂笑が、あった。

冷笑があった嗤笑があった嘲笑があった失笑があった勧笑があった哄笑があった苦笑があった。

空気中の粒子までも完璧にコントロールし尽くされた研究室の中で、少年にも青年にも見えるその男は高らかに嗤っていた。

その理由にまで気が向く者は、当の本人を除いて一人だけ。

眼鏡をかけたその女は結果の見え透いた質問をあえて口にする。

「――――やはり、無理か」

返答は頬の痛みと床の冷たさだった。

鈍い音とキーボードが落ちるけたたましい音の連鎖。

彼の拳は人を殴るようには変形していない。むしろそのように変形した自分よりも、よっぽど華奢だろう。壊すことに慣れ、元の形を忘れた自分のものより、創り出すことしかできないその拳。

だが女性はあえて受け身をとらなかった。

配慮に欠ける言葉だったと、言った後で気付いたからだった。

傷ついた彼の心に、精神に、塩を塗り込むような追い打ちだと思ったからだった。

荒い息を吐く男はそのまま皮膚を引き裂かんばかりに頭を掻き毟って、男は絶叫する。それは悲鳴に近い狼の遠吠えのように聞こえた。

だが、そんなことをしても完全防音であるこの部屋の外にはその叫び声の一デシベルすら漏れない。彼のヒビ割れの音を聞けるのは自分しかいないのだ。

その事実に昏い安心感のようなものすら覚えつつ、女性はこれ以上男を刺激しないようゆっくりと起き上がった。その際に先刻男が首元から毟り取るように外したダイブ用の機器が目についたが、女性はそれを別段どうとも思わなかった。どうせもう使うことなどほとんどない。

デスクから零れ落ちたキーボードをきっちり元の場所に戻し、転がっていた椅子に腰を下し、絶叫の傍らで何事もないように画面と向き合う。

短いタイピングだった。

別に眼鏡の女性のタイピング速度がオリンピッククラスということではなく、ただ単純に打つ文量が極めて少なかったのだ。

だがたとえ文量がなくとも、意味が薄いという訳ではない。そこに込められた思いを――――想いを、自分は誰よりも知っているのだから。

【第3030次最終実験――――失敗(フェイル)。これを以て量産化指向計画《アイ計画(プロジェクト;インディゴ)》を突端とする再現性転向実験《解法構想(プラン∴5V)》を中止、予定通り永久凍結するものとする。】

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