第二十六話:殺人鬼、帰省す。
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る二人のもとに、見慣れた影法師が差した。
「お前たち、特に一夏。帰りが遅いから様子を見に来てみれば何をしている……私はアイスクリームが食べたいと行ったはずだよな?だから早く帰れとも言った。違うか?」
そこにはうだるような暑さでイライラが臨界点に突破してしまい、おしとやかさや女子力と言ったものが全て禍々しさに置換されてしまった般若がごとき羅刹女が居た。ノーブラタンクトップにホットパンツという姿なのにまるで色気を感じないのは、やはり周囲に渦巻いている粘性の強い怨念めいた謎のオーラの様なもののせいであろうか。
「ラシャ、お前がついていながらどういうことだ?ん?」
「いやあ、何だ。つい話し込んじまってたらいきなり一夏がな……」
「分かった、アイスが溶けたのはお前のせいなんだな。うん。死刑だ」
「ち、千冬ね……」
「一夏、お前も同罪だ」
「「ぬわーーーーーーっ!!」」
この時の千冬の折檻は鳴きに鳴いていた蝉共でさえ我先に飛び去るほどの凄絶なものであったという。
「そんなわけでクソ暑い中我々のためにお暴れになられましたので、そうめんを献上したいのですが如何でしょうか?」
「うむ、苦しゅうない」
惨劇から一時間後、片頬に大きな紅葉を貼り付けたラシャは、織斑家応接間にて戦前の戦国武将のごとく鎮座している千冬にそうめんを恭しく差し出していた。一夏は全速力でアイスクリームを買い直しに言ったため、現在シャワーを浴びていた。不機嫌な千冬という核爆弾と同じ屋根の下に居る貧乏くじは引かせられぬと、ラシャが敢えて矢面に立つ形となったのだ。
「しかし、俺の部屋の道具をみんな運んでくれていたんだな」
ラシャはちらりと二階へ目をやった。そうめんを茹でる前に、千冬に通された二階の一室には彼がアパートに置いていたものがほぼ無傷で置かれていたのだ。勉強机やかき集めた史料。何気無く買った漫画本やその日適当に書いた買い物のメモまでが律儀に置いてあったのだ。
「何時帰って来ても良いようにしただけだ」
千冬はそっけなく答えるものの、僅かに上気した頬と僅かに釣り上がった口角は、彼の帰還を喜んでいるに違いない。一見突き放したような態度を取っているが、此方を捉えて離さない流し目がバレバレである。
「そうかそうか、ところでな〜にビール空けてるのかなあ〜?」
ラシャは苦笑いしたまま千冬の右手でチャプチャプ音を立てている銀色の缶に目をやった。白騎士事件以前は飲酒できる歳ではなかったとは言え、此処までの飲ん兵衛になってしまうのは頂けない。
「今日はオフだ。見逃せ」
「ほう、日の高いうちから呑むとはいい度胸だ。健全なる社会人として教育して
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