CAST30
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その能力は、本家分家の誰にも気付かれず賭けの胴元を務める程度容易くやってのける。
「この家ときたら…まったくもう…!」
「では車を手配して参ります」
と穂波が部屋から出ていった。
四葉家族は昼食を終え、少しだけ間を置いて穂波の運転する車に乗り込んだ。
「あの、お兄様」
「どうした深雪?」
「その、先ほどの端末を貸していただけないでしょうか?」
達也はあっさりと深雪に端末を渡した。
深雪がポケットからイヤホンを取り出し、端末のジャックに差し込んだ。
そして、添付されていた音声ファイルのアイコンをタップした。
『答えを聞かせて。王子様』
『そうですね、お姫様…
真夜さん。俺は貴女が好きです』
「…!?」
深雪の心臓が跳ねる。
その音声ファイルは、白夜と真夜の告白シーンのファイルだ。
深雪は直ぐに盗聴した物だと察した。
水波が白夜に好意を抱いているのは周知の事実だ。
その水波が立場故に二人と離れ、その腹いせにやったのだろうとは予想できる。
深雪は聞くのを止めるべきだと理解していても、イヤホンを外す事は無かった。
そして場面はキスシーンへ。
映像が無い故に、その音声は彼女の想像を掻き立てる。
達也は水波の性格をある程度知っていたのでファイルの内容の予想がついていた。
その上で、水波の寄越した物なら大丈夫だろうと深雪に渡したのだ。
しかしその処女雪のような肌を真っ赤に染めている深雪の様子を見て、内心しくじったと思っていた。
「達也」
「はい母上」
「深雪さんを放っておいていいのかしら?」
「……今更返せとは」
「そうね…。内容の予想はついているの?」
「流石に、行為の録音ではないでしょう。
付き合い始めたその日に、と言うのは考えにくい。
それに二人はコミューターの中で行為に耽るほど常識が無いわけではありません」
2093年現在、アダルトビデオにおいてそのようなプレイも存在するし、実際にヤる者も居る。
「とは言え深雪の反応から察するに、睦言の盗聴かと」
先で行為に及んでいないと言いながら『睦言』と表現したのは二人への皮肉だった。
深夜と達也が深雪へ目を向ける。
「放っておきましょう」
と深夜が言った。
「ええ、深雪もそういう歳ですから」
それを聞いていた穂波は肩を震わせながらハンドルを握っているのだった。
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