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真田十勇士
巻ノ百三十五 苦しい断その十一
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「宜しいですな」
「全軍一丸となり」
「そうしてですな」
「大御所殿の本陣に突き進み」
「その御首を取る」
「そうしますな」
「そうしましょうぞ、右大臣様も出陣されます」
 秀頼、彼もというのだ。
「その時はまさにです」
「一丸となって攻めて」
「そうしてですな」
「勝つのですな」
「必ず」
「そうしましょうぞ、大御所殿さえ討てば」
 家康、彼をだ。
「戦は勝ちです」
「幕府の総大将さえ討てれば」
「それで、ですな」
「勝ちに大きく傾く」
「そうなりますな」
「左様、ですから」
 それでというのだ。
「乾坤一滴の勝負を挑みましょう」
「その時に」
「そうしましょうぞ」
「我等で」
 諸将も大野に応えた、大野はこの時の軍議はこれで終わった。そして彼は治房を呼び止め先のことで顔を強張らせている彼に話した。
「お主に頼みたいことがある」
「と、いいますと」
「お主は国松様を何としてもじゃな」
「はい、お護りするつもりです」
「ならばそれを頼む」
 こう言うのだった。
「是非な」
「国松様をですな」
「何があってもな」
「そのお命をですか」
「頼む、わしからもな」
「左様ですか、しかし」
 治房は兄を警戒しいざとなれば刀を抜かんばかりの顔になって彼にと生かした。
「それだけでしょうか」
「どういうことじゃ」
「お話するのはそれだけでしょうか」
「他には何もない」
 大野はその治房を見据えてこう返した。
「わしがお主に言うことはな」
「まことでありますか」
「まことじゃ、決してじゃ」
「他のことはですか」
「言わぬ」
 強い声での返事だった。
「決してな」
「それでは」
「うむ、国松様をじゃ」
 秀頼の子である彼をというのだ。
「頼むぞ」
「わかり申した、それでは」
「何としてもな、そしてじゃ」
「兄上もですな」
「全てを賭けてな」
 まさに彼のそれをだ。
「右大臣様はお護りするからな」
「ですか」
「わしは至らぬ臣だった」
 己をこう自責しての言葉だ。
「戦になることも講和も裸城になることもな」
「その全てをですか」
「何も出来なかった」
 茶々を止められなかったというのだ、だがそのうえでもだった。彼は治房に対して強い声で言ったのだった。
「しかしそれでもじゃ」
「右大臣様は」
「うむ、お助けする」
 その命をというのだ。
「何があろうともな」
「では我等は」
「そのことは果たす、そしてな」
「それがしもですな」
「国松様を頼むぞ」
「わかり申した」
 確かな声でだ、治房は再び兄に約束した。そうしてだった。
 先のことは大野があえて聞かずにことを進めさせた、大坂での再度の戦が最早目前に迫っているその中で。

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