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真田十勇士
巻ノ百三十五 苦しい断その七

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「ではいざという時は」
「当家からですな」
「右大臣様を逃がされて下され」
「そしてそのうえで」
「はい、加藤家と島津家とも話をしております」
「左様ですか」
「ですからいざとなれば」
 大野は拝む様にして木下家の者に言った。
「右大臣様は」
「お任せ下され、そしてこのことは」
「断じてですな」
「我等誰にも話しませぬ」
 それこそというのだ。
「それこそ殿がです」
「木下殿が」
「一子相伝とされ我等に至っては」
「もう誰にもですか」
「言いませぬ、言いそうものなら」
 その場合になってもとだ、木下家の者は大野に約束した。
「腹を切ってです」
「口もですな」
「封じます」
 その命を消してまでしてというのだ。
「そうしますので」
「だからでござるか」
「はい、ご安心下され」
「右大臣様に何があっても」
「我等が秘密にします、そして」
「西国に逃れても」
「誰にも言いませぬ、無論加藤家も島津家もですな」
 木下家の者は大野に両家のことを問うた。
「やはり」
「はい、それはです」
「既にですか」
「加藤家は熊本の城に密かに右大臣様の為のお部屋を用意されていますし」
「ならば」
「最初からです」
 それこそ加藤清正が生きていた頃からだ。
「何かあればです」
「匿われるおつもりで」
「ですから」
 それでというのだ。
「他言はありませぬ」
「絶対に」
「そして島津殿は」
「あの家は元からの秘密主義」
「ですから他の誰に言うことなぞ」
 具体的には幕府に話が漏れる様なことはだ。
「ありませぬ」
「では」
「はい、若しもです」
「右大臣様が逃れられても」
「漏れませぬ」
 この話はというのだ。
「その手配は真田殿が事前にされておったとか」
「何と、あの御仁が」
「この戦の前に。虎之助殿がご存命の頃に」
「その頃にですか」
「既に動かれていてです」
 これは大野も最近知ったことだ、それで幸村の先に先にあらかじめ打てる手を打っていく知に舌を巻いたのだ。
「用意してくれていて」
「それで、でありますな」
「はい、何がありましても」
 それこそ秀頼が絶体絶命になってもだ。
「大丈夫とのことです」
「では」
「はい、後はです」
「当家がですな」
「その時はお願い申す」
「当家は北政所様のご実家です」
 ねね、秀吉の正妻だった彼女のだ。
「ですから右大臣様もです」
「何がありましても」
「戦には加われずとも」
 それでもというのだ。
「お助け申す」
「さすれば」
「いざという時はお頼り下され」
「そうさせて頂きます」
 大野は再び木下家の者にすがる様に頼み込んだ。
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