141 車椅子
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返事を兼ねて。
全国大会の開催の地、盛岡へ向かう時が来た。両親は仕事の休みを貰っており、息子に同行する事になっていた。
「茂、準備はできたかい?」
「うん」
「じゃあ、行こうか」
藤木とその両親は家を出た。藤木の理想ではクラスの皆から駅で見送られて電車に乗りたかったのだが、この日は平日だ。わざわざ自分の為に学校を休めるはずはないし、その為に来てくれなんて図々しい事も言うわけにもいかなかった。
(寂しいな・・・。見送ってくれる人がいない状態で電車に乗るなんて・・・)
藤木はそう思いながら歩いていた。
清水駅に到着した。藤木は父親から乗車券を貰った。
「これがお前の切符だ」
「うん、ありがとう。父さん・・・」
(それじゃあ、皆、行ってくるよ・・・)
藤木はこの場にいない自分のスケートを応援してくれる者達に無言でそう告げた。その時・・・。
「藤木君!!」
藤木は後ろを振り向いた。声の主は笹山だった。車椅子に乗り、それを看護師に押してもらっている。
「笹山さん!?」
「間に合ってよかった。お見送りしたくて来たの。皆学校だから藤木君寂しがってるんじゃないかなって・・・」
「それで僕の為に・・・。ありがとう、笹山さん!!」
「うん、看護師さん達に無理言って車椅子を借りてここまで連れて来て貰ったの・・・」
「そうだったんだ。そうだ、笹山さん。これ、お守りとして持っていく事にしたんだ」
藤木はポケットから猿のストラップを取り出した。そのストラップは以前藤木が偶然遊園地で笹山と会って楽しんだ記念に買ったものである。
「うん、私、藤木君ならきっと優勝できるって信じてるわ!」
「うん、きっと優勝してみせるよ!」
その時、藤木の母が息子を呼んだ。
「茂、そろそろ行くよ」
「うん、それじゃあ、行ってくるよ」
「頑張ってね。さようなら・・・」
藤木は両親と共に改札を通って行った。笹山は藤木の姿が見えなくなるまでその場にいた。
(藤木君、まだ私かリリィさんか、それともスケート場で仲良くなっていたあの子か誰にするかまだ決められてないようだけど、私は・・・)
「もう戻るわよ」
「はい、わざわざありがとうございました」
看護師に言われて笹山は車椅子を押してもらい、車椅子に対応した自動車に乗り、病院へと戻った。
藤木達は静岡駅から新幹線で東京まで行く予定だった。東京行きの列車が到着した。切符に書かれてある番号に対応した席に着席した。
(笹山さん・・・。君の怪我が治るのを待っているよ・・・。そして僕は絶対に金か、銀、銅のどれかを必ず獲って戻って来るよ・・・)
藤木は笹山の為に、そして応援してくれる皆の為に世界大会への出場を誓った。
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