第五十二話 水の都その十三
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「次に出る船に乗ってだ」
「行けばいいか」
「そうさ、それでな。陸なら余計にだよ」
「馬で追いかけてか」
「追いつけばいいさ」
「それだけか」
「あくまでな、簡単なことだ」
吟遊詩人が今日街を出てもとだ、芳直は冷静に述べた。
「それだけだよ、もっともな」
「今日のうちにか」
「出ることはないだろ、どうも客の話を聞いてるとな」
店にいる一行以外の客達の話は続いていた、吟遊詩人についてのそれが。その話を聞くとだった。
「ここに来てまだ数日位だな、長くて」
「ほんの少しか」
「それでここはこうした店も金持ちも多いだろ」
「吟遊詩人が歌う場所がか」
「だったらな、ここでな」
「思い切り稼ぐか」
「その為に来たって意味もあるだろうしな」
旅の金なり何なりを稼ぐ為にもというのだ。
「だったらな」
「今日か明日のうちにはこの街は出ないか」
「ああ、だから焦らずにな」
「明日か」
「酒が抜けてすっきりした顔でな」
「そいつに会えばいいか」
「そうさ、じゃあ今はな」
今日はというのだった。
「とことんまで食って飲んで」
「楽しんでか」
「親父が紹介してくれた最高のホテルに入って」
丁度彼等が今いる区画にある、親父はこのことも頭に入れていてそのうえで彼等にこの店を紹介したのだ。
「休んでな」
「それからか」
「そいつに会いに行こうな」
「それがいいな」
久志は芳直のその考えに賛成して頷いて応えた。
「じゃあ今日はな」
「飲んで食ってだな」
「休もうぜ、まあ俺達の常か」
今度は笑って言った久志だった。
「飲んで食ってはな」
「そうだな、それは」
「ああ、魚は続くのはどうでもいいけれどな」
そこは一行の誰も構わなかった、全員魚魚介類は嫌いではないむしろ好きだからだ。
「飲んで食ってばかりなのはな」
「こっちの世界じゃな」
「それはどうかと思うにしても」
「ああ、それはそれでな」
「明日そいつに会いに行くか」
「是非な」
芳直は今度は鯛の目を口の中に入れた、そうしてその独特の味を楽しみつつ仲間達とさらに話した。そのうえで食事の後はホテルに向かうのだった。
第五十二話 完
2018・2・1
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