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真田十勇士
巻ノ百三十四 寒い春その十四
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「いい主である筈がない」
「そう言われますか」
「しかしお主はそう言うのじゃな」
「これまで悪いことをされたことは全くありませぬ」
「だからか」
「殿以上の方はおられませぬ」
 大野以上の主はというのだ。
「まことに」
「わしは最高の家臣達を持っておる」
 大野は米村に答えなかった、だが。
 静かに瞑目する様にだ、こう言ったのだった。
「天下一の果報者じゃ、幸せであったわ」
「そう言われますか」
「まことにな、悔いはない」
 米村の言葉を聞いて心から思ったことだった、このことは。
「ならばな」
「それならばですか」
「思う存分果たそう、もう流れは戦に傾いているが」
「それでもですな」
「戦を止めるし戦になればな」
「右大臣様をですか」
「お助けしよう、そして何かあれば」
 その時はというのだ。
「もう手は打ってある」
「では」
「このことは言わずともわかるな」
 米村ならばとだ、大野は彼に問うた。
「そうであるな」
「はい、それでは」
「その様にな、お主には娘を任せた」
 今確かにというのだ。
「そしてわしも動く」
「さすれば」
 米村も応えた、大野はいざという時の備えもせんとそちらの動きもはじめた。そして彼の読み通りにだった。
 大坂の流れは彼が襲われたことから日増しに戦へと傾いていっていた、このことに治房は強い声で己の家臣達に話した。
「我等最早死ぬ気で戦いじゃ」
「そして、ですな」
「そのうえで、ですな」
「武士としての意地を見せる」
「そうするのですな」
「黄金の旗と具足の力を見せるのじゃ」
 即ち豊臣家のというのだ。
「よいな、そしてじゃ」
「はい、敗れてもですな」
「右大臣様だけはお守りする」
「そしてご子息の国松様も」
「あの方もですな」
「国松様は例え何があろうちもじゃ」
 それこそというのだ。
「わしがお護りしてじゃ」
「そうしてですな」
「生きて頂く」
「そうされますな」
「わしは懸命に戦い豊臣の武を見せてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「国松様をお護りする」
「その二つを果たされますな」
「必ずや」
「そうされますな」
「そうじゃ」
 まさにというのだ。
「何に替えてもな」
「わかり申した、では殿はです」
「そうして下され」
「我等はこの戦に全てを捧げます」
「見事散ってみせましょう」
「国松様お頼み申す」
「是非共」
 家臣達も口々に応える、彼等は覚悟を決めてそのうえでこれからどう戦うのかを考えていた。それは滅びを意識したものだったが。 
 確かに誓い合った、彼等にも彼等の忠義があった。だがそれでもだった。
 自身の兄についてはだ、治房はこう言った、
「まだ講和と言われておるのはな」
「残念
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