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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十七話まつりの仮面は何に憑く
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な軍と内務省の連携、その要となっているのが閣下だと」
 裏に何をにおわせているのか感じ取ったらしい弓月伯爵はゆっくりと相手を観察しながら答える
「私は勅任参事官として警保局の他局に跨る政策を統括している。疎開政策も出元は龍州庁だ」

「そしてその後押をし、軍部に通した」「必要な政策調整を行う事が私の仕事だ」
 空気の変動を感じ取った秘書官が間に入ろうとする。
「そう、その調整についてお尋ねしたいのです」「時間はあまり割けないが」
 それを押しとどめた内務省勅任参事官はゆっくりと歩みを進め、平川もそれに随行する。
「馬堂家と婚約関係をもった事で戦時において軍部の伝手を得られているのではありませんか?」「‥‥‥」
 答えることもなく由房は歩みを進める。答えるべき事は何もないという事だ。
「これからの内務省と陸軍省の連携を深めるにあたって参事官閣下としても辣腕を振るう機会が増えるのではありませんか?」
「それは公務に対する侮辱だ、馬堂家の者にも、私にとってもな。続けると厄介事を引き起こすぞ」

「これは失礼、ですが馬堂中佐がこの時期に皇都に戻るという事は何かしら弓月閣下としても良い機会ではありませんか?」「馬鹿を言うな、内務省が軍の運営に口を出すわけがあるまい」

「‥‥‥なるほど?」平川の質問をはぐらかしている――私的な事だと一度切り捨てた後に公私の曖昧な部分を突く、どうでも良い事なら隙を見せる、核心を突くときは――今のように論点をずらし、答えが返ってきたかのように錯覚させる。

「‥‥‥ふむ、ところで君の名は平川君で良いのかな?」「はい、閣下」「君、アレを」「はい、閣下」
 秘書が差し出したのは奇妙な安っぽいチラシであった
「平川君、もし君がこの “事後処理”が何を生み出すのか知りたいのならそこに行ってみることをお勧めしよう」「は、はぁ」
「君なら面白いものにたどり着けるかもしれないな、また会おう」
 すでに興味を失ったことを露骨に示す素振りで秘書を引き連れ伯爵は階段を下りて行く。

「――揺さぶるつもりだったが、誘われたか」

いわゆる位階持ち――上流階級を相手にまず必要なのは自分達が無知な羽虫ではないと教えることだ。そして揺さぶり、話をずらすなり怒りだすなり、相手の反応を引き出す。普段の取材でも似たようなことをやっているが手が莫迦でも周りに備えた口止め役が侍っているものだ。今回は違った。あの貴族は報道すらも堂々と自分の舞台で踊れとさそってきたのだ。
――否。それだけなら良いが何の役を割り振っているのか分かったものではない。何しろ相手は内務官僚、とりわけ天領行政官と衆民警官たちの支配者だ。奴らが誰を崇めるかといえば皇主の次に崇めるのは奴だ。
――だがそれだからこそ、か。知っておくという事は重要極まりない事
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