暁 〜小説投稿サイト〜
SAO -Across the another world-
ACT.1 The another "Fairy Dance"
一話 労働者の背信
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畳が規則正しく敷かれた敷地内へと入った私は、自身が所属する部署が入る棟を目指した。履いた低いヒールの踵が石畳に打ち付けられ、こつこつという音を冷空に響かせる。時刻は六時半。大学生の時ならまだベッドで熟睡していた時刻だが、社会人となった今では出勤時間となった。政府から奨励されている八時間業務など入社二年目の新米にとっては夢のまた夢。朝早く出勤し、夜遅く退社する。残業は基本だが残業代は出ない。数年前に流行したプレミアムフライデーは最早影も形も無い。サービス残業が当たり前であった。

それでも、今している仕事自体は嫌っている訳ではない。むしろ、コンピューター関連の仕事という、自身の得意な分野で働けている事は幸せだと思う。九州の田舎者が東京の大学に進学したこと自体奇跡であったが、そこからまさか一流企業に就職できるとは思ってもみなかった。幼少期より父の影響で学んでいたコンピューター関連の知識が役に立った結果だった。

勤め先が入るビルの入り口で指紋と網膜の両方認証を受け、警備員に社員証とドアパスを一体化した物を受け取り、それを首に掛けた。たかが社員証であるが、これを首に掛けていないと警備員に連行され、警察に連れていかれてしまう。あらゆる場所に監視カメラや空港にあるようなエックス線探知機があるなど、ここの施設のセキュリティレのベルは官公庁並に高い。それだけ機密が詰まった建物なのだろう。

私は建物に入ったその足で、所属する部署がある部屋まで歩いた。建物内は適度に暖房が効いていてとても過ごしやすい。三十分近く歩いて火照った身体には暑く感じられた。なので、着ていたコートは歩いている途中に脱ぎ、適当に畳んで左腕に掛けた。

まだ出社時間では無いため、建物の中には誰も居らず、静けさが建物内を完全に支配していた。誰ともすれ違わない廊下をしばらく歩き、特定のドアの前で止まった。そのドアの向こうには、私が所属する部署に割り当てられた部屋がある。首に掛けた社員証をドアノブの上にあるスリットに差し込み、さらに指紋センサーに指を乗せてセキュリティを解除した。

薄暗い部屋の中には、まるで漁火のようにモニターの光がぼんやりと浮かんでいた。その話だけを聞けば幻想的だな、と思うかもしれないが、現実を見ればその漁火は私達の仕事道具であり、全く幻想的ではない。

私の身体を赤外線センサーが捉え、幻想的とは程遠い漁火を消すかのように室内に明かりが灯り、薄暗かった室内をLEDが照らした。殺風景な部屋の中には事務机の上に乗ったデスクトップのパソコンが数個とホワイトボード、それと資料等が入った金属製の棚だけであった。

私は自分に割り当てられた机にマイバッグとコートを置き、椅子に座ると同時にパソコンを立ち上げた。静かな起動音がスピーカーから、生暖かい風が冷却用のファンから流れだし
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