MR編
百五十四話 成長
[6/11]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
で出来た壁の間を歩いていた。互いに何か言葉を発しようとはするのだが、どうしてもそれらを発するよりも前に言葉に詰まってしまう。どうしてこんなにも話に詰まってしまうかと言えば単純な話で、実を言うと……キリトとサチ、この二人が2人きりになる状況そのものが、SAOで迎えたクリスマス以来、久しぶりだったのだ。
そもそもあの日以来の二人の隣には、何時もアスナやリョウをはじめとして誰かが居たし、彼らを排してまで、態々二人で話すタイミングも無かった。何よりも……おそらくはお互いに、意図的に二人きりになる事そのものを避けていたのだと思う。自分達が二人きりになってしまうと、どうしてもあの日の事を思い出してしまうことが分かっているから。それにきっと、キリトは今も、あの日の自分を許せてはいない……いや、彼が自分を完全に許せることは、生涯無いのかもしれない。そう思うと、サチもまた、うかつに声を掛ける事が出来なかった。だが……
「……なぁ、サチ」
「え?あ、うん。どうしたの?」
意外にも、今日はキリトの方が先に、口を開いた。
「……もし、俺の所為で嫌な事を思いだしたりしていたら……ごめんな」
「……キリトこそ……」
「いや、俺は……」
仮に周囲が薄暗い事を差し引いたとしても、少年の顔は、顔色が良いとはお世辞にも言えない状態になっていた、反射的に彼は首を横に振ろうとして……しかしそんなごまかしになんの意味もない事に気が付いたように、一つ呟く。
「……ごめん」
「……ううん、私こそ……何時もキリトに気をつかってもらってるよね……」
SAOに居た頃から、キリトは自分を常に気遣うあまりに、彼自身の事は二の次にしてしまう傾向があった。其れは今もあまり変わっていないし、その原因は紛れもなく、あの頃の自分に在る。だから……出来るなら、今はキリトの苦しみを、自分にも分けてほしかった。そうすることくらいしか、あの時キリトの優しさを利用し、縋ってしまった自分に出来る事はないと思っていたから。
「でも、私は大丈夫だから……辛かったら、言って……ね?」
「……あぁ……ありがとう」
そうは言いつつも、まだキリトは自分がそれに足る人間なのかどうか、そんな風に、サチに縋る事が許されるのか、それを迷っている。其れはサチ自身にも分かっていたし、そこに彼自身が納得できるのかどうかは、自分にはどうしようもない事だと、彼女は知っていた。キリトはとても優しく、人を本心から思いやることのできる心の温かい人間だ。だからこそ、自分のしたこと、吐いた嘘、そして目の前で死んでいった仲間たちの事について自分自身を許せないし、こうして今も迷っている。当事者である自分が許しても、彼自身の心は彼を許していない。それは、どうしようもない事実だ。もし彼の中のそれをどうにかできるとしたらそれはきっと……
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ