第五十二話 水の都その五
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「湖沿いの島の集まりに出来た街でね」
「運河も造ってか」
「そんな街だからな」
「ゴンドラがないとな」
「もう行き来なんてな」
それこそというのだ。
「無理だぜ」
「そうなんだな」
「ああ、ここは本当に水の街だよ」
「水の都だな」
笑ってだ、久志は親父にこう返した。
「ここは」
「おいおい、都かい」
「それじゃあ駄目かい?」
「都は言い過ぎだろ」
首都までとはだ、親父は久志に照れ臭そうに言った。
「流石にな」
「そうか?いい呼び名だろ」
「いい呼び名でもな」
「都にはか」
「まだ遠いさ、だから水の街だろ」
「そっちか」
「ここはな、けれどな」
都ではなくともとだ、親父は久志に話した。
「ここはいい街だよ」
「景色は奇麗で賑やかでな」
「食べものも美味いぜ、そんな街はな」
それこそというのだ。
「他にないぜ」
「この島に二つとない街だな」
「そうさ、この島にも東の島にもな」
それこそというのだ。
「ないぜ、ただ下の世界にはな」
「海の中にあるその世界にはか」
「あるみたいだけれどな、名前もな」
それもというのだ。
「そのままな」
「ヴェネツィアなんだな」
「そうさ、俺は行ったことがないけれどな」
「そこもこんな風か」
「あっちは海に面していてな」
そうしていてというのだ。
「塩辛い水のな」
「それでこんな風にだよな」
「栄えているらしいな」
「そうか、下の世界はあれだっていうな」
久志はここで自分の世界のことから話した。
「俺達の世界と大体同じだっていうしな」
「あんた達の世界?」
「ああ、こっちの話だよ」
怪訝な顔になった親父に一言で返した。
「それは」
「あんた達のか」
「ああ、だからな」
「俺にはわからない話か」
「そうなんだよ、悪いけれどな」
「悪くはないけれどな」
それでもとだ。親父は久志に怪訝な顔のまま話した。
「別に」
「だといいけれどな」
「とにかくな、こっちのヴェネツィアと違ってな」
「下の世界のヴェネツィアはか」
「海に面しているそうだな」
「そうなんだな」
「そっちのヴェネツィアにも行きたいな、何時か」
久志は考える顔でこうも言った。
「本当にな」
「そうだよな、しかしな」
「ああ、今はだな」
「海の魔神が全部隠しちまってるからな」
「世界丸ごとな」
下に広がるその世界をとだ、久志も応えた。
「だからな」
「ああ、無理だよ」
「下の世界のヴェネツィアに行くにはか」
「海の魔神を倒さないとな」
「わかった、それじゃあな」
久志は遠い目になった、そしてその遠い目には決意があった。
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