第四章
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「後はわかるやろ」
「はい、よく」
西本の怒った時は何よりも怖いことを知っていての返事だ。
「それで、ですか」
「一年ですね」
「禁酒させた、わしは飲まんからな」
「監督下戸ですからね」
「そや、ノムと一緒や」
南海の監督の野村克也もそうなのだ。
「わしは飲まんからな」
「だからですね」
「そうしたことはわからんのや」
酒で調子が上がることはというのだ。
「そやからあいつがあそこまでなるなんてな」
「思いませんでしたか」
「ああしたやり方があるんやな」
西本は唸りながら言った。
「いや、それもわかったわ」
「そうですか」
「ああ、しかしな」
「それでもですか」
「今は敵同士やけどよかったわ」
かつての弟子の大成を喜んでだ、西本は笑って言った。
「完全試合よおやった」
「そう言えますか」
「ああ、ほんまにな」
この言葉に偽りはなかった、西本は心から今井の完全試合達成を祝った、今は敵同士であったがそこには野球人としての確かな心があった。
今井は完全試合を達成した後も二度も最多勝利投手のタイトルを獲得し最優秀防御率とベストナインのタイトルも獲得した。特に八十四年はその最多勝、最優秀防御率、ベストナインと輝かしい活躍をし助っ人で三冠王を獲得したブーマーと共に優勝に貢献した。
その彼をファン達はこう言った。
「酒を飲むと凄いんだよ」
「もうそこから本領発揮だ」
「飲んで投げて勝つ」
「梶本さんがはじめてくれてよかったよ」
多くのファン達が彼と酒の関係を面白可笑しく思い話に出した、だが今井自身は飲んでマウンドに立った時のことを苦しいと言った。
「自分が飲みたくて飲んでいたんじゃなくて」
「そうだったんですか」
「はい、もう飲んで投げるとよかったんで」
インタビューを受けてこう答えるのが常だった。
「無理に飲まされていたんで」
「好きなお酒も無理に飲まされると」
「苦しいですよね」
飲みたくない時に飲まされると好きなものでもというのだ。
「それでなんです」
「苦しかったんですか」
「はい、ですが飲むと苦しいんで」
この感情が強くなってというのだ。
「打たれたらどうしようとか不安もなくなって」
「それはどうしてですか?」
「苦しいって思うばかりで不安だとか思う余裕がなくなって」
それでというのだ。
「二軍やブルペンで投げている時と同じ様な感覚になって」
「普通に投げられてですか」
「はい、それでボールが走って」
「調子がよくて」
「もう飲まなくても普通に投げられる様になったんです」
これは慣れか才能が開花したか、今井はそこは語らなかった。
「それでまあ長い間投げられたんですね」
「二十一年ですね」
「まさかそんなに長く投げられると
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