第一章
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食い合わせ
これは板垣退助が神田村という村にいた時の話である、この時の彼の姓は確か乾だったと思うが板垣とした方が馴染みがあると思いこちらで書くことにする。
この時板垣はこの村に蟄居を命じられており大人しくしていた。その中で彼は神田村の村人達ともよく交わっていた。
「いや、上士の出の方というのに」
「威張るところもなくな」
「わし等ともよく交わられる」
「よい方じゃ」
「まだお若いがな」
それでもというのだ。
「出来た方じゃ」
「きっと大きな方になられるぞ」
「将来な」
「そうした方になられるぞ」
後に彼等のこの言葉は当たることになる、だが今はそのことはあくまで彼を知る者達の読みでありそうなることは誰も知らなかった。
だが板垣の器が若いながらも大きいことは確かだった、それで村の者達も彼を慕った。その中でだった。
板垣は尊重の家に呼ばれ共に呼ばれている村人達と共に飯を食っていた時に彼等のことであることに気付いてそれで彼等に尋ねた。その尋ねたことはというと。
「お主達鰻をよく食うが」
「はい、この辺りは魚が豊富で」
「土佐ですからな」
「土佐は後ろは山で他の国へ行くことは難しいですが」
「前は海なので」
「我等も魚はよく食います」
「刺身にしても天麩羅にしても」
そしてだった。
「鰻もです」
「かば焼きが美味いですな」
「鰻は好きです」
「板垣様の言われる通りよく食います」
「それはよいが」
板垣はその細い顔を顰めさせつつ言った。
「お主達鰻を食う時は梅は食わぬな」
「食い合わせが悪いではないですか」
「鰻と梅干は」
「だから食わぬのです」
「同時に食えば腹を下します故」
「それで、でございます」
「それじゃ、それは迷信であるぞ」
板垣は村人達と共にその鰻、鰻丼を食べつつ彼等に行った。
「別にそんなことはないぞ」
「そうなのですか?」
「鰻と梅干を共に食ってもですか」
「腹を下しませぬか」
「別に」
「それはない、死ぬとまで言う者もいるが」
それもというのだ。
「ない、それを今拙者が見せようぞ」
「まさか」
「ここで梅干もですか」
「梅干も食されますか」
「そうされますか」
「そうする、持って参れ」
梅干を入れた壺をというのだ、村人達は渋ったが板垣はその彼等によいよいと笑って言うのだった。
「ははは、若しもの時は拙者が腹を下して雪隠詰めになるだけ」
「それだけのことだからですか」
「よいのですか」
「特に」
「そうじゃ、お主達には何もないからな」
気にするなと言ってだ、そしてだった。
板垣は梅干の壺を持ってこさせそのうえで梅干も食った、そうして言うのだった。
「
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