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愚か者
第五章
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「そんな吉本が戦後最大の思想家とか言われていたとかね」
「何かとんでもない話ですね」
「それだけ戦後の我が国の思想はおかしいのかな」
「その吉本を持て囃している知識人達も」
「高校生以下の人間がね」
 そうとしか言えない者がというのだ。
「戦後最大の思想家とかね」
「言われているなんて」
「本当に戦後日本の知識人ってのは駄目なんだろうね」
「何でそこまで駄目なんでしょうか」
「そりゃ色々あるだろうけれどね」
 その理由はというのだ。
「だって北朝鮮が絶賛されているんだよ」
「斑鳩先生北朝鮮もですか」
「嫌いだよ、世襲制の共産主義なんてあるかい?」
「普通有り得ないですね」
「あの国を好きな先生も多いけれどね」
 日教組、日本教職員組合は北朝鮮と近い組織である。その委員長であり槙枝元文が北朝鮮の教育が理想と言っていた位だ。
「あんな国が絶賛されるとかね」
「おかしいですか」
「地上の楽園なんて謳い文句もね」
「最初からおかしいってですか」
「思わないとね、そんな北朝鮮を持て囃す様な人達ばかりだろ」
 そんな程度ならというのだ。
「吉本みたいな人間でもね」
「戦後最大の思想家ですか」
「そうも言われるよ」
「全体のレベルが低過ぎるんですか」
「戦後日本の知識人はね」
「だからああしてですね」
「吉本が持て囃されていたんだよ、けれどね」
 ここでだ、斑鳩は岩崎に問うた。
「生徒にオウムやあの教祖を偉大だとか言えるかな」
「そんなの言えませんよ」
 即座にだ、岩崎は斑鳩に否定の言葉で返した。
「絶対に」
「そう、言えないよね」
「だっておかしいことは明白ですから」
 常識という時点でだ。
「どう見ても」
「そうだね、つまり吉本隆明よりもうちの生徒の方がずっと賢いんだ」
「ものもわかってますね」
「北朝鮮も一緒だね」
「この前廊下で男子生徒が北朝鮮は東映の特撮ものの悪役そっくりだって言ってましたよ」
 そうした悪の組織と、というのだ。
「オウムも似てますしね」
「特撮ものの悪役にね」
「そう考えますと」
「吉本も戦後日本の知識人達もね」
「相当にレベルが低いですね」
「そう言うしかないね」
 斑鳩は岩崎に苦い顔で述べた、そのうえで昼休みの間に彼が受け持っているクラスの仕事をした。それは岩崎も同じで。
 岩崎はこの時から吉本隆明を一切評価しなくなり思想の本も読まなくなった。だがその彼を生徒達は良識がある真面目な教師と評価していた。それは彼に常識に基づくしっかりとした知性があるからだった。
 そして彼は結婚してからの教師を続けていたがとあるニュースを聞いて家で妻に言った。
「何でもない奴が一人死んだよ」
「何でもない奴って?」
「吉本隆明だよ」
「誰、それ」

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