114部分:イドゥンの杯その二十
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イドゥンの杯その二十
「血」
「はい。ニーベルングの血脈を持つ者は。クリングゾル様に逆らうことは出来ません」
「絆故にか。一族の」
「それもあります」
「では他には」
「クリングゾル様は我々の心に入ることが出来るのです」
「何っ」
それを聞いて流石に驚きを隠せなかった。
「馬鹿な、そんなことが」
「信じられないでしょうが本当のことなのです」
「・・・・・・・・・」
トリスタンは沈黙してしまった。クンドリーの悲しげな声、それが何よりの証拠であったからだ。彼はその言葉が真実のものであるとわかったのだ。
「私達は。クリングゾル様のコントロールを受け。その意のままに動くのです」
「だからか」
彼はそれを聞いて気付いた。
「卿がイドゥンの技術を盗んだのも」
「はい」
またこくりと頷いた。悲しい顔で。
「全ては。クリングゾル様の御意志です」
「そうだったのか」
「陛下の思われる通りあれはファフナーに使う為に私が持ち去ったものです」
「そしてファフナーは完成した」
「そうです。そしてバイロイトとニュルンベルクは」
「全ては。ニーベルングにより」
「・・・・・・・・・」
「あの男の野心の為か」
「否定はしません」
トリスタンの言葉は真実であった。今のクンドリーは真実を否定する者ではなかった。
「クリングゾル様は。この銀河を手中に収めようと考えておられます」
「何の為にだ」
「野心の為。そして」
「そして!?」
「ニーベルングの血脈の為に」
「その為には他の者なぞ構わないということか」
「我々はこのノルン銀河にいる多くの者とは違うのです」
「何っ」
また一つ疑問が生まれた。
「それは一体」
「トリスタン様」
クンドリーは言った。
「ヴァルハラ双惑星にお向かい下さい」
「ヴァルハラに」
「はい。そこで運命が貴方を待っておられます」
「また運命か」
パルジファルの言葉が思い出される。彼と同じことを言っていた。立場は全く違う筈なのに。
「貴方もまた。そこへ行かれるべき方なのです」
「他の六人と共にだな」
「それを何処で御聞きに」
「一人の男からだ」
トリスタンは答えた。
「モンサルヴァート。パルジファル=モンサルヴァートという男からだ」
「そうですか、あの方から」
どうやら彼のことは知っているようであった。その名を聞いたクンドリーの声が安堵したものになる。
「ではもう迷うことはありません」
彼女はそのうえで言った。
「ヴァルハラへ向かわれるのです」
「そこに運命があるのだな」
「はい」
彼女は答えた。
「全てが。そして二つの血族の戦いが」
「二つの血族の」
「一つはニーベルング。そして一つは」
声が薄れた。
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