113部分:イドゥンの杯その十九
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イドゥンの杯その十九
「ここだな」
トリスタンは司令室の扉の前に立って言った。見れば左右にそれぞれ開く形の何の装飾性もない扉であった。
「ここにクンドリーがいる」
「では」
「待て」
先に行こうとする部下達を制した。
「ここは私だけで行く」
「しかし」
「よいのだ」
それでも行こうとする部下達をさらに制止する。
「彼女が私の命を狙っていないことはわかっている」
「はあ」
「そして話がしたいというのもな。わかっていることなのだ」
「ではここで待っていて宜しいのですね」
「うむ。私一人で済む」
彼はまた言った。
「全てはな。では行って来る」
「畏まりました」
こうしてトリスタンは扉を開け部屋の中へ入って行った。中はありきたりのコンピューターや様々な機器に囲まれた部屋であった。彼は今その中にやって来たのだ。
扉が閉まる。すると前から声が聞こえてきた。
「ようこそ」
「やはりここにいたか」
「はい」
前からクンドリーがゆっくりと姿を現わした。
「お待ちしておりました」
彼女の細い身体が現われた。やはり黒く長いドレスをその身に纏っている。
「陛下もお元気そうで何よりです」
「少し失礼させてもらうぞ」
部屋の中は思ったより暑かった。彼は防寒着を脱ごうとする。
「ええ、どうぞ」
クンドリーはそれを認めた。そして彼はそれを脱ぎ普段の服装になった。そのうえでクンドリーに対して問うた。
「まずは聞きたいことがある」
「はい」
「ファフナーのことだが」
最初はそれであった。
「私の研究を盗んだな」
「はい」
クンドリーはその言葉にこくりと頷いた。
「その通りです」
「そうか」
予想していたことだが今真実がわかった。
「そしてあれを完成させたのだな」
「左様です。その為に陛下のお側に参りました」
「やはりな。ではそれはニーベルングの命令によるものだな」
「そうです」
そしてそれも認めた。
「私は。普通の者ではありません」
「どういうことだ」
「私は。ニーベルングの一族なのです」
「ニーベルングの」
「はい」
クンドリーはこくりと頷いた。
「クリングゾル=フォン=ニーベルング様の一族、それがニーベルング族なのです」
「ニーベルングのか」
「私も。メーロトも」
「彼も」
「そうです。ニーベルング族なのです」
「だがそれだけでニーベルングの部下になったのか」
「いえ」
その細い首をゆっくりと振る。
「私達はあの方に逆らうことができないのです」
「それは何故だ」
「血です」
クンドリーは言った。
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