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110部分:イドゥンの杯その十六
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イドゥンの杯その十六

「それも。わかっております」
「では何の用で通信を入れたのか」
「陛下がラートボートに来られるのではないかと思い」
「それに答える義理はないと今言った筈だが」
「わかっております。ですが」
「ですが!?」
「私が。ラートボートにおられるならば事情が違いましょう」
「どういうことだ」
「ラートボートにおいで下さい」
 クンドリーは言った。
「そこで。全てをお話しましょう」
「全てをか」
「はい。お待ちしております」
 彼女はさらに言う。
「そして私はそこで・・・・・・」
 ここで通信は切れた。クンドリーはその姿を漆黒の中に消したのであった。
「・・・・・・・・・」
「陛下」
 側にいた艦隊司令の一人ディースカウが言う。
「御言葉ですが」
「わかっている」
 罠だと疑っているのはわかっていた。
「それにあの星系には帝国軍が展開している。そう考える方が妥当だ」
「では」
「いや、それでもラートボートに向かおう」
 彼はそのうえでこう決断したのであった。
「行かれるのですか」
「そうだ。確かに罠かも知れない。いや、そう考える他ない」
「それでも」
「行く。そしてクンドリーと話してみたい」
「宜しいのですね」
「うむ。覚悟はできている」
「わかりました。ではお止めしません」
 彼等もその言葉を聞いて意を決した。
「我等も御供致します」
「済まないな」
「何、これもまた戦いです」
 彼等は微笑んでそれに応えた。
「陛下の為ならば火の中であろうと水の中であろうと」
「ヴァルハラまで御供致します」
「済まないな」
 トリスタンもそんな彼等の言葉が有り難かった。その堅苦しい顔にも思わず笑みが浮かぶ。
「では行くぞ」
「はい」
 こうしてトリスタンはラートボートに兵を進めることになった。それまでの星系は友好的な星系はこぞって彼を迎え入れ、中立だった星系はある者は迎え、ある者は沈黙していた。だがトリスタンは巧みな外交交渉により彼等を取り組んでいった。敵対する星系には兵を送り降伏させた。しかしその方針は穏健なものであり進む度に彼等は戦力を増強させていった。
 ところがそんな彼等に対して帝国軍は何もしなかった。これには事情があった。
「どうもブラバント司令の軍と激しい戦いに入っているようです」
「彼の軍とか」
「はい。その結果劣勢に追い込まれているとか」
「ふむ」
「テルラムント提督自ら出陣しているようですし。彼等も後がないようです」
「各地で帝国は劣勢に追い込まれているようだな」
「オフターディンゲン公爵も兵を挙げたそうですね」
「彼だけではないしな」
「ニュルンベルグを破壊されたシュトルツィング執政官も戦いを有利に進めているようです。そしてヴ
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