暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン〜Another story〜
マザーズ・ロザリオ編
第258話 心に届く想い
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と小道、なだらかな丘とその向こうの湖を美しい風景画の様に一望できるが、北向きの物置部屋の窓からは草深い裏庭と小さな川、間近に迫る針葉樹の森が見えるだけだ。この季節ではそのほとんどが雪に覆われて、寒々しいと言う意外に表現できない長めである。
 しかし、それで良い。――ただ、綺麗な景色を見せる為にここに連れてきた訳ではないから。この光景こそが、京子に見せたかったものだから。

「どう、似てると思わない?」
「……似てるって何によ? ただのつまらない杉林じゃ――――ッ」

 言葉は、途中で吸い込まれるように消えた。口を半ば開けたまま、どこか遠くを見る様な眼差しで、窓の外を眺めている。
 それだけで、アスナは判った。いや、判ってくれた、と思った。

「ね、思い出すでしょう……。お祖父ちゃんと、お祖母ちゃんの家を」

 明日奈の母方の祖父母。つまり京子の実の両親は、宮城県の山間部で農業を営んでいた。家があったのは、急峻な谷間を抜けていった先の小さな村。水田は全て山肌を段々に拓いた棚田であり、機械化など使用も無かった。主に作っていたのはお米で収穫できるのは一家が一年食べればなくなってしまう程の量だった。
 それでも、どうにか京子を大学まで進学させることが出来たのは、ささやかながら先祖伝来の杉山があったからだ。
 旧い木造の家は、その山裾に蹲る様に建っており、縁側に座ると見えるのは小さな庭と尾川。そしてその奥の杉林だけだった。

「私は――ううん。レイもそう。宮城のお祖母ちゃんとお祖父ちゃんの家が大好きだった。夏休みと冬休みは、2人で駄々こねてまで連れて行って貰ってたよね」
「……………」

 京子が覚えていない訳はない。
 あの時は確かに明日奈と玲奈が京都の結城本家よりも京子の実家に行くことを好んでいたのは知っていたから。あまり体裁が良いものではない、と何度か注意をし、京都の集まりの方を優先したがっていたのだが、幼い頃の姉妹は頑なだった。物心つくころには飽きるだろう、と半ば放置していたとも言えるかもしれない。

「お祖母ちゃんとお祖父ちゃんは、林なんかみても面白くないだろーって何度か私たちに言ってたけど、私とレイは全然つまらなくなんか無かった。……とても好きだった。白い雪の中に黒い杉の幹が何処までも連なっているのを見ると……なんだか心が吸い込まれそうになった。雪の下の穴で春を待つ子ネズミになった様な気もしてた。……ふふ。レイと一緒に毛布にくるまって、そうしてたら不思議と心細いような温かいような、不思議な感慨だった。とても、とても楽しかった」

 いつしか、約束の5分はとっくに過ぎ去っていた。それでも、時間を忘れた様に京子はこの光景を、無言で見入っていた。そしてアスナは隣に並び立つと、ゆっくり話を続けた。

「母さん覚えて
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