巻ノ百三十四 寒い春その二
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「右大臣様もな」
「茶々様が言われたことでも」
「あの方が今の大坂の総大将だからのう」
茶々、彼女がというのだ。
「総大将が決めたことならな」
「それに従いですな」
「ついていくしかないからじゃ」
それ故にというのだ。
「ここにおる者達もな」
「茶々様の強情に従い」
「滅びるしかないわ」
「左様ですか」
「普通ならここで出る」
大坂の城をというのだ。
「しかしな、お主が言う通りにじゃ」
「あの方ならば」
「出られぬこともな」
「普通にですな」
「有り得るわ」
こう語った。
「あまりにも強情だからな」
「もう豊臣の天下ではないこともですな」
「わかっておられずな」
そしてというのだ。
「政も戦もわかっておられずじゃ」
「人の話も聞かれず」
「そしてあまりにも強情でじゃ」
「まだ大坂に留まられることも」
「有り得るわ、わしとしてはな」
有楽はその顔に苦い、そして残念なものを感じてそのうえで我が子に話した。
「茶々様には滅んで欲しくないからですな」
「だからじゃ」
「それ故に」
「もう大坂から出てじゃ」
「そして江戸にですな」
「入って欲しいのじゃがな」
「そうなれば最もよいですな」
長頼も言う。
「やはり」
「あの方にとっても豊臣家にとってもな」
「しかしですな」
「それはどうもじゃ」
「ならぬかも知れませぬか」
「わしは茶々様を止められぬ」
「父上でもですな」
「叔父でしかないからのう」
茶々から見て敬愛する立場のだ、彼女の母であるお市の方が信長の妹つまり有楽の姉妹だからのことである。
しかしだ、その彼でもというのだ。
「ただの叔父ではな」
「あの方にはですな」
「言えぬわ、天下人の母と思われている方にはな」
「治部殿は言えましたな」
「あ奴はまた別格であった」
石田三成、彼はというのだ。
「太閤殿でももの怖なく言えたな」
「どの様なことでも」
「ああした気質の者は稀有じゃ」
誰が相手でもそれがよいと思えば憶することなく言うことが出来る者はというのだ。
「そして太閤殿に言えたからにはな」
「茶々様ならば」
「止められた、太閤殿は止められなかったが」
言いはすれどだ。
「それは出来たわ」
「治部殿程の気概があれば」
「わしはそれはない、只の叔父じゃ」
その程度ならというのだ。
「止められぬわ」
「それで、ですな」
「どうしようもない、今の大坂はやはりな」
「茶々様を誰も止められぬ」
「それが一番の頭痛の種じゃ」
「何もわかっておられぬ方を」
「これからもそれでどうなるかじゃ」
有楽は瞑目する様にして述べた。
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