巻ノ百三十四 寒い春その一
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巻ノ百三十四 寒い春
大坂での戦が終わり大坂城は完全な裸城になった、天下の名城も今や本丸だけの実に心もとないものになった。
その有様に浪人達は次々と去り有楽もだ、子の長頼に言った。
「ではこれでじゃ」
「我等もですな」
「都に入るとしよう」
「もうおられませぬしな」
長頼は父にこう応えて言った。
「我等を疑う目が強くなり」
「ははは、疑うというよりかな」
「真実をですな」
「見られておる、我等は実はじゃ」
「幕府の者であることを」
「もう殆どの者がわかっておるわ」
豊臣家のというのだ。
「それこそな」
「茶々様以外は」
「そうじゃ、それにもうこうした裸城になったのじゃ」
「豊臣家にしましても」
「城を出るしかないわ」
そうした状況になったというのだ。
「この様な城の有様で戦をしてもじゃ」
「敗れるだけですな」
「そうなるのは必定、だからな」
「もうですな」
「豊臣家は幕府の言葉に従いじゃ」
そのうえでというのだ。
「大坂を出るわ」
「そうせざるを得ませんな」
「だからじゃ、我等のやるべきことは終わった」
「幕府に大坂のことを色々と伝え」
「講和、そして今までもっていった」
「ならばですな」
「これでじゃ」
全てが終わったからこそというのだ、彼等がすべきことが。
「都に入るぞ」
「そうしてですな」
「わしは楽隠居じゃ、茶に専念するとしよう」
三度の飯より好きなそれにというのだ。
「これからはな」
「そうされますか」
「そのうえで大坂を見るが」
「右大臣様は大坂を出られて」
「そしてじゃ、暫く閉門なり何なりになられるであろうが」
「少しして許されてですな」
「国持の大名に戻られるわ、これでよいのじゃ」
有楽は我が子に微笑んで話した。
「右大臣様にとってはな」
「それでは」
「すぐに都に入る用意をするぞ」
「わかりました、ただ父上」
長頼は有楽の言葉を受けたうえで自身の父にあらためて問うた。
「一つ気になることがあるのですが」
「茶々様のことじゃな」
「あの方は天下一の強情殿、ですから」
「それでじゃな」
「今の有様になろうともです」
「大坂から出られぬか」
「そうされるのでは」
「その時は致し方ない」
有楽は達観した顔で長頼に答えた。
「右大臣様も豊臣家もな」
「また戦になり」
「そのうえで滅ぶ」
「そうなりますか」
「もうその時はじゃ」
それこそというのだ。
「滅びるしかないわ」
「左様ですか」
「人は引き際がある」
「それを誤れば」
「滅びるわ」
そうなってしまうというのだ。
「だからじゃ」
「その問いはですか」
「茶々様もじゃ」
「滅びるしかありませ
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