12 性別の壁は厚い。
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約30分後、ようやくその店に着いた。
予約しておいた名前を告げると中に案内された。編笠を取る。個室では、もうすでに平子が席についていた。
_「待たせたなァ?」
と、出来る限り晋助になる演技をする。我ながら、中々の腕前だ。
すると平子はどうぞどうぞ、と私を席に案内してくれた。そして口を開く。
_「そんなぁ、待ってないですって。私なんかに逢いたいだなんて、どういうことなのでございますか?総督様?」
_「私なんか、だってェ?お嬢さんこそ中々の大物じゃァねェのかァ?泥水平子殿?」
平子が酌をしてくれるようだ。黙って盃を差し出す。
酌の仕方は心得ているようだ。今度真似してやろう。www
_「そうですかぁ?まだまだ私なんて、下っ端に過ぎませんよ?」
そうかィ、とだけ言っておいた。
_「ところで単刀直入になっちまって申し訳ねェんだがお前さん、ちょっと鬼兵隊のためにアルバイトしねェかァ?」
酌を持つ手が止まった。
_「アルバイト、ですかぁ?」
_「あァ。実はな、今、鬼兵隊はこの女を探してんだァ。かぶき町にいる、ってことだけ分かってんだがなァ、あいにくオレたちは場所が掴めねェ。そこでこの町の事なら何でも知ってそうなお前さんに頼み事がしてェんだが、やってくれるかァ?」
と、言う。平子が固まっているのをいいことに耳元に近づいて囁いた。
_「報酬は弾むぜェ?ただリスクは高いがなァ。」
…どうにも声だけは難しい。やはり、性別の壁はキツい。
耳から声が入ってくる。
_「オイ、零杏。報酬は金貨百枚までだァ。そこだけは違うなよ?いいな?」
と、本物の晋助に凄まれた。
晋助特有の、あの凄絶な笑みを浮かべて、どうする?と囁いた。
するとしばらくすると、平子が口を開いた。
_「分かりましたぁ。ですが、」
と、迫ってきた。素早く顎を固定されてキスされた。結構深いやつである。
しばらくしてから離された。
_「今先にお駄賃を頂いたので、今回は金貨50枚で我慢いたしますわ、兄貴ィ?」
と笑みを浮かべていたので、私も負けじとあの笑みを浮かべた。
_「いいぜェ?じゃあ、早速案内してくれや。」
と言うと、平子は私の腕を取って出口の方へと向かった。私は編笠をかぶり直してから懐に手を伸ばし金貨を5枚ほど出すと、店主はまいど、と言って、ドアを開けてくれた。
_「今、案内されているところだから、着いたらまた連絡するわね。」
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