巻ノ百三十三 堀埋めその十三
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「まあ適度にな」
「お子が生まれぬ場合はですな」
「跡を継がせるが」
「千様との間にお子が生まれれば」
「それに継がせてな」
「松平にですな」
「してよしとする、さて浪人衆を出せばよいが」
豊臣方が残った彼等をというのだ。
「そうでなければな」
「戦ですな」
今度言ってきたのは板倉だった、彼は今は都から駿府に来ていてそれで家康に応えたのである。
「それしかないですな」
「そうじゃ、まあおそらくこれで出ると思うが」
「さしもの茶々殿も」
「茶々殿の強情さはかなりじゃ」
「その強情さで、ですな」
「戦を選ぶことも充分考えられる、いや」
「茶々殿ならば」
板倉はあえて言った。
「それもですな」
「有り得るからのう」
「戦も考えておきますか」
「そうしておく、こちらも不本意じゃがな」
「それでなのですが」
今度は正純が言ってきた。
「実は上様がです」
「千のことでじゃな」
「戦になれば夫と共に死ぬべきと言われておるとか」
「やれやれ、あ奴はまことに生真面目じゃ」
家康は秀忠のその話を聞いて苦笑いになって言った。
「夫に何かあればじゃな」
「はい、奥方様であられる千様もとです」
「言っておるか」
「その様に」
「それで自分の細君は違うからのう」
お江についてはというのだ。
「必ず逃げよと言うわ」
「そうした方ですな」
「死ぬのは己だけでよいとな」
「それが上様ですな」
「あれだけ生真面目な奴もおらん」
父の家康が見てもだった。
「あれはな、まさにな」
「先のですか」
「あの竹千代に似ておるわ」
長男であり嫡男であった信康を思い出し言う家康だった、その時の顔は遠くを見る目であり悲しいものもあった。
「武の方は全くないがな」
「そこはですな」
「あの竹千代とは違うがな」
「それでもですな」
「よく似ておるわ、兄弟でのう」
「その上様だからですな」
「わしの後もじゃ」
自身がいなくなろうともというのだ。
「天下をよく治めてくれるわ」
「ですな、必ず」
「これからは武でも策でもない」
そうしたものは泰平になればいらない、家康はそこまでわかっていた。
「真面目なこと、そしてな」
「律儀ですな」
「それじゃ、幕府は律儀にじゃ」
「約を守っていくべきですな」
「それが大名であろうとも民であろうともな」
自身が治め下に置くべきどの様な者達でもというのだ。
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