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消えぬ死神、響く死の残響
嗤うが故に死を想う

前書き [1]後書き
鼻腔に突き刺さる腐敗と血肉の死を纏う匂い。
三十人近く居た隊の中で、無様に生き延びたのは冷徹に凍る海を映した蒼眼の死神。
死神は死に絶え地に転がる死体を見て艶やかに、そして冷徹の色を込めた笑みを浮かべた。

「──あぁ、死んでしまったのか。……良かったな、死ねて。俺はまだそちらに招いてさえもらえないようだ」

どこか芝居じみた言葉を転々と転がる肉塊に零す。
人が呼ぶ『死神』の名は最早、シンには死と同等に位置する馴染み深いものになった。

『死神』

その名が運んだのは他人の死だけだ。
幾ら望んだとて、望んだものを運んだ事はたったの一度とてない。至極単純明快な願いだというにも関わらず。

ジャラッと足元に光る、鈍色の枷が耳障りな音を立てる。
幾ら階級を与えられたとしても、その身に背負い込んだ罪状は消える事は無い。
ましてや『死神』の名を冠する彼には“背負い込んだ十字架を降ろす”という考えは端(はな)から存在しない。
その答えを示すように『死神(シン)』は口元を歪めて嗤う。
血に濡れた大地はいずれ“黒地”と化すだろう。
“赤地”はその地の生命を吸い始め、やがて吸い尽くせば生命を認めぬ“黒地”と成り果てる。
それは幾度も見てきた惨状で、戦地に赴いた者だけが見れる、弔いの華だ。
“黒地”の下にも“赤地”の下にも幾多の生命の残骸がある。死者が無様に生きる生者に手向けた“血の凱歌”若しくは“血の施し”とも、言えるのかもしれない。

鮮血の海に沈む地上を嘲笑うが如く銀色に輝く三日月を見て、小さく息を吐く。

死を望む者が死に絶えず、死を恐れる者が死に絶える。

何故、と思う。
死を希(ねが)う者が死ねば良かろうに。
死を恐れる者が生き長らえれば良かろうに。
何故こうも、世界は矛盾を生むのだろう?

“今日”持ち帰ってきた『戦利品』の眼球を手の内ので弄びながら、死に怯える者たちを横目で眺める。
血の涙を流せるのは人だけ。
『死神』の自分にはその資格がそもそも存在しない。

「死ねたらどんなに愉しいのだろうか……」

無意識に言葉が零れ落ちる。
別に“自殺”という名の病に侵されている訳ではない。単に思うのだ。
死ぬ間際に『あの人』が言った言葉の真意は何だったのだろうか、と。
赫色(あかいろ)に染められた眼球を月明かりに透かして見る。








そう、まるで──……








そうすれば死者の『最期』が見えるかのように、『死神(シン)』はそれを月明かりに透かし続ける。
終わる事の無い血明かりの夜は、今日も飽く事無く『鮮血の死神』を照らしていた。
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