終極 ──明日へ──
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で見続け、人の輝きと無限の可能性を信じたウィスの手により阻止された。人類最後のマスターである立香とマシュに全てを託しこの世界から悔いることなく消滅したのだ──
多くの悲劇があった。嘆きがあった。悲嘆が、悲しみが、痛みが、救われない物語があった。
絶望もしよう、失望も落胆も、そして『憐憫』もしよう。人類史が救いなき歴史を有していることも認めよう。
何故ならウィスは実際に人類史の時の歩みと共にこの目で見てきたからだ。だがそれが人類史を築き上げる全てではない。
悲劇は人類史を彩る一種の飾り、人類史を構成する骨組みにすぎない。光があるところに影があり、正義があるところに悪が存在するのと同じ理屈だ。
『獣』は過去と未来、未来を見通す全能なる目を有していたのにも関わらず人類史の負の部分しか見ようとしなかった。彼らが想像する以上に人類は美しく、捨てがたい輝きを有しているのだ。
人に全能は遠すぎる。
──初めから誰も天に立ってなどいない。人も、悠久の時を生きるウィスも、そして神すらも──
全能とはそれ以上に進化の余地がなく、人の輝きを否定するものだ。人類はいつだって不完全性を克服することができずに人類史を築き上げてきた。人は届かないと知りながらも幾度も完全性を目指し、多くの災いと嘆きを生み出してきた。
完全性の追求、死の克服、悲劇の存在しない世界。誰もが一度は夢見る理想の世界。一匹の『獣』が求めた大偉業、過去への───原初への到達。
決してその想いは間違っていない。間違ってなどいないのだ。だがその行いはこれまでの人類の歩みと『獣』自身の生きた過去を否定する行為だ。
悲劇とは生きる上で決して切り離すことができないもの。確かに見るに堪えない悲劇がこれまで幾度も起きただろう。だがそれが生きるということだ。
何より彼らの軌跡を、頑張りを、絆を無かったことにはさせはしない。人類史とは謂わば喜劇と悲劇、善と悪の両方を内包した人類の足掻きと生きた歴史だ。
形ある物はいずれ崩れさる運命にある。悠久なものなど存在せず、人も神もその定められた誓約から逃れる術など存在しない。だが限りある時間の中でこそ人の輝きは意味を持ち、後の世へと確かな軌跡を残すのだ。
ウィスの姿はこの世界の何処にも存在しない。
だが確かに彼の意志は然るべく者たちが受け継ぎ未来へと繋いでいく。
─ウィスの杖が光った気がした─
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