ターン89 鉄砲水と、覚悟
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を出し、真っ直ぐに語りかけてくる。
「私からあなたにかけられる言葉は、もはや1つだけでスーノ。私には今あなたが何に苦しんでいるのか、それはわかりません」
「先生……」
苦しんでいる、とは、よく言ったものだ。表に出したつもりはなかったけど、きっぱりとお見通しだったか。
「なのでこれは無責任な言葉かもしれませんが、それでも言わせてもらいます。必ず成すべきことを成し遂げて、皆で悔いなく卒業式を迎えるノーネ!」
「……はい!」
その言葉を最後に、狭い道でどうにかUターンを決めた軽トラがガタガタと揺れながら去っていく。大きく手を振ってそれを見送り、その姿が完全に見えなくなる前に自分から背を向けた。成すべきことを悔いなく、か。その言葉を何度か頭の中で反芻し、それから先ほどのチャクチャルさんの問いにまだ返事をしていなかったことを思い出した。僕の成すべきこと。悔いを残さないこと。皆で、卒業式を迎えること。皆で。
ふと、あるアイデアが頭の中に閃いた。いや、それはアイデアなんて呼ぶのもおこがましい。あまりにも現実とかけ離れた、綺麗事の理想だけを固めたかのように稚気じみた夢。だけどそれを、口にせずにはいられなかった。
「ねえ、チャクチャルさん。さっきの話だけど」
『ふむ』
こちらの声の調子から、早くも何かを察したらしい。何を言い出すのかというかすかな警戒と、それでも抑えきれないらしい好奇心を、その短い言葉の端々から感じる。それには気づかないふりをして、なるべく何気ない調子で問いかけてみる。
「そもそも、本当にどうにもならないのかな。全部丸く収まるハッピーエンドは、もうありえないのかな」
『と、いうと?』
これだけで多分、チャクチャルさんには僕の言いたいことが伝わっているはずだ。だけどあえて問い返してきたのは、それを僕自身の言葉として語ってみろというのだろう。だから僕も、思い切って言葉を続けた。本来固めるべき覚悟に比べるとあまりにも浅ましく身勝手で、だけど切実な小さな叫びだった。
「夢想のことは、とっくの昔にどうにかできるレベルを超えたのかもしれない。だけどそんな物騒な話より先に、本当に夢想をこっち側の世界に引き戻す方法はないのかな、って」
『助けたい、と?傲慢だな。少しでも自分の気に入らないことには必ず他に満足できる選択肢があって、その全てが自分の思い通りになると?そもそも当人の意思も考えずに自分のエゴだけで手を差し伸べることが救いになると?なあマスター、それは本気で思っているのか?』
即座に投げ返された言葉は冷徹で、残酷で、だけど正しかった。夢想を倒すのではなく、助ける。単純な言葉だが、まさに言うは易しだ。20年近く前の死人、ダークネスの傀儡でしかない魂を今更、人間の世界に戻す?B区はそれを望ん
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