ターン89 鉄砲水と、覚悟
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込めてどうにか涙を振り切る。この優しさに身をゆだねる、それは許されないことだ。
……僕と、夢想。共にあの交通事故の生き残りで、ダークネスに人生を何もかも捻じ曲げられた者同士。にもかかわらず僕は『彼女』から再び人間としての生を与えられ、彼女はダークネスに『彼女』の無念を含めその全てを利用される手駒としての偽りの生を与えられて。
結局のところ僕ら2人の運命を分けたのは、たまたま僕だけが即死せず虫の息で生きていたというだけの単純な理由でしかない。彼女と僕の立ち位置は、そっくりそのまま真逆でも何もおかしくはなかった。
でも、だからこそ、だ。誰よりも河風夢想に近くて、誰よりも河風夢想から遠いところにいる。この話に幕を引けるのは、僕しかいない。僕の手で、全て終わらせる必要がある。それが僕のダークネスにできる精一杯の抵抗であり、『彼女』に向けられる最大限の手向けだ。そして、その責任は当然僕が負う。それが筋だ。
……なんて即答できたら、それはどれだけ立派なことだろう。未来を向いて前に進む、高潔で誇り高い覚悟だ。だけど僕は、どこまでいっても僕でしかなかった。そうするのが正しいはずなのに、自分のエゴのせいでこの期に及んでまだ迷う。そのくせくだらない意地ばかり張って、手を差し伸べてくれたチャクチャルさんの優しさに素直に甘える事すらできないでいる。
「僕は……」
「あ、あそこだクロノス先生!」
「わかってるノーネ!シニョール清明、そこをどきなさい!」
言いかけた言葉はしかし、突如聞こえてきたけたたましい排気音と聞き覚えのある2つの声のせいで中断された。なぜか見覚えのある、しかしどこで見たのか思い出せないおんぼろの軽トラがガタガタと危なっかしく揺れながらこちらに近づいてくる。明らかに止まりきれないであろうその勢いにさっと森の中に逃げ込むと、案の定その直前まで僕のいた場所を踏みつぶすようにしてどうにか、といった様子で停車した。開きっ放しの窓から、だいぶ久々に見た気がする親友の顔が飛び出した。
「無事だったか、清明!」
「十代!」
「と、止まったノーネ……」
「それにクロノス先生も……なんでここに?」
運転席に突っ伏した、いかにも疲労困憊なクロノス先生をちらりと見る。ぐったりとしたままの先生に変わり、十代が笑いながら返す。
「どうもこうもないぜ。色々あって童実野町から戻ってきたら、お前と連絡が取れなくなったって三沢が焦っててな。ちょうどクロノス先生がこの車でまだ避難できてない生徒がいないか見回りをしてたから、廃寮まで様子を見に行くところだったのさ」
「車はトメさんが食材運搬に使ってるのを借りたノーネ……ペペロンチーノ、まさかこんな危ない物に乗っていたとは夢にも思わなかったノーネ……」
言われてよく見れば確かにこの軽トラ
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