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遊戯王GX〜鉄砲水の四方山話〜
ターン89 鉄砲水と、覚悟
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景色が後ろにすっとんでいった。このスピードなら、恐らくラーイエロー寮までは2、3分で着けるはずだ。

『……なあ、マスター』
「何?」

 チャクチャルさんの声も、ダークシグナーの力を解放して一時的にその結びつきを強めたからかいつもより明瞭に聞こえる。だからこそ、その声に含まれたわずかな躊躇いにも気づくことができた。スピードは落とさないまま問いかけると、思い切ったように語りかけてくる。

『どうも今のマスターは、見ていて不安なんだ。ひとつ、私と約束してくれないか?』
「約束?」

 たまたま木の上にいた、野生の猿と目が合った。こんなに校舎の近くまで来ていたところを見るとかなり人に慣れている、もしかすると野生に帰ったSALだったのかもしれない。もっともこちらにその確信が持てなかったように、あちらが僕のことを認識できたかは怪しいものだ。ほんの1瞬自分の目の前を駆け抜けていった、灰色と紫の風にしか見えなかったことだろう。

「約束、って?」

 何かよほど切り出すのを躊躇うようなことなのか、少しの間沈黙が流れた。あまりの気まずさにもう1度聞き直そうかとさえ思ったところで、ようやく返事が返ってくる。

『先ほどの話がすべて真実だとして、というよりも、あの話は恐らく真実だろう』
「だろうね」

 あっさり肯定した僕がよっぽど意外だったのか面食らった様子のチャクチャルさんに、思わず笑ってしまう。少し説明が足りなかったので、もう少し詳しく話すために自分の胸をポンと叩いて見せた。

「僕にはわかるよ。根拠もないし覚えてないけど、僕の中の何かが教えてくれる。あの話は本当だ、って」
『そうか』

 また沈黙。いきなりネズミが1匹足元を横切ったため、スピードを落とさないまま踏みつぶさないように軽くジャンプしてそれを避ける。すぐ着地してまた走り出したのを合図に、かつてないレベルで歯切れの悪いチャクチャルさんが再び口を開く。

『約束してもらいたいのは、マスターの想い人についてのことだ』
「……うん」

 ああ、やっぱりその話か。もうこれ以上避けては通れない、どこかで必ずしなくてはならなかった話だ。それでもやっぱり、触れて欲しくない話題だと思うのはわがままだろうか。

『こんな所で会話を誘導する意味も無し。私とマスターの仲だ、率直に言わせてもらうぞ。あの女、マスターに殺せるのか?』
「殺……!」

 稲石さんを看取った時から、すでにその覚悟はできていたはずなのに。情けないことに投げかけられた言葉の重みを受け止めることもできず、走る足がもつれる。地面が突然の勢いで迫ってきたかと思うと、受け身を取る暇もなくそこに顎から叩きつけられた。

「ぐっ……!」

 悲鳴を押し殺してすぐさま立ち上がり、ローブに付いた埃を払
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