ターン89 鉄砲水と、覚悟
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遊の死に際に残した話を、僕のルーツとも言うべきその話を、じっくりと噛みしめる。ちらりと盗み見た富野の表情は彼が言葉を失っていることを如実に表しており、どうやらこの話は彼にとっても初耳だったらしい。ダークネス、夢想、稲石さん、そして僕。複雑にもほどがある人間関係が、よりにもよってこのとんでもなく忙しいタイミングで一斉に襲い掛かってきやがったわけだ。
『マスター』
「……わかってる」
せっつくようなチャクチャルさんの言葉に、そんな気はなかったがつい吐き捨てるように答えてしまう。すでに稲石さん戦、そして今の遊戦のせいで生まれたタイムロスはかなり大きい。この賢者の石を三沢に届ける、元々そのために僕はここに来たのだ。結果的にはそれが、ダークネスに対する何よりの復讐にも繋がる。色々と、割り切れないものはある。頭の中はぐちゃぐちゃだ。それでも、僕がここでやらなくちゃいけないんだ。やりたいようにやればいい。カイザーや大徳寺先生の言葉が蘇る。なら、これが今の僕がやりたいことだ。
「……じゃあ、僕はこれで」
「ああ」
短く富野に別れを告げ、よろよろと立ち上がる。しっかりと地面を踏み締めているはずの自分の両足が、なんだかひどく頼りないものに感じた。
最後に一礼し、くるりと背を向ける。もう、彼に会うことはないだろう。ふらつく足に活を込めて走り出そうとした僕の背中に、最後に富野の声が被さってきた。
「……なあ、遊野清明」
立ち止まり、しかし振り返らずに耳を澄ます。やや歯切れ悪く、しかしはっきりとした声だった。
「……お前は、俺みたいになるなよ。仲間を、友達を、ライバルを……全部失うようなヘマ、絶対にすんじゃねえぞ。もう後輩はいらねえ。お前みたいに扱いにくそうな奴、なおさらだからな」
何があったのか、なんて絶っ対に聞く気はない。なんか重い話っぽいし、間違いなく暗い話だし。なんでこの忙しい時にそんなめんどくさい上に長くなりそうな話を聞いてやらなきゃいかんのだ。
ただ、まあ。その言葉の実感のこもった重みは、そこに込められた彼の本音は、確かに受け取った。背を向けたまま片手をあげ、大丈夫だとアピールする。1度も振り返らないまま、たっと地面を蹴って駆けだした。
普通に走るだけじゃ、もう間に合わないかもしれない。走りながら顔の前に片手を持ってきて拳を握り、ぐっとひと撫でするように横に動かす。ただそれだけで、全身に蛇が絡みつくように紫の痣が走る。視界がクリアになり、これまで目に入らなかった世界の隅々までもが目に飛び込んでくる。そしていつもの赤い制服を包むように、灰色の地に紫の筋模様が入ったフード付きローブが全身を包んでいた。少し手をやって視界にかかっていたフードの位置を調整すると、これまでとは比べ物にならないほどの速度で周りの
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