巻ノ百三十三 堀埋めその十
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「後はな」
「はい、裸の城で」
「その残った兵達で戦うしかない」
「そうなりますな」
「講和をしたが」
それでもというのだ。
「茶々様はな」
「大坂を出られぬ」
「出られる筈がない」
茶々の考えはもうわかっていた。
「だからな」
「また戦になり」
「今度こそな」
後藤はあえて言った。
「大坂は滅びるであろうな」
「左様ですか」
「わしはもう未練はない」
この世にというのだ。
「最早な」
「お母上もですな」
「浄土に行かれた、家族も預けた」
確かな者達にだ。
「だからな」
「思い残すところはなく」
「思う存分戦いそのうえでじゃ」
「死ぬこともですか」
「出来る、しかし貴殿は違うな」
「はい」
幸村は後藤に確かな声で答えた。
「それがしはです」
「あくまで生きてじゃな」
「果たすべきことを果たす所存です」
後藤にもこう言った。
「何があろうとも」
「そうであるな、貴殿らしい」
後藤は幸村のその生き方を否定しなかった、むしろ肯定してそのうえで彼に対してさらに言うのだった。
「それでわしも今思い残すことはないと言ったが」
「それでもですか」
「今は右大臣様が主じゃ」
秀頼、彼がというのだ。
「だから右大臣様の為に戦い最後までな」
「右大臣様をお護りすますか」
「そうも考えておる」
「そうですか」
「どちらにしても無駄死にするつもりはない」
こう幸村に述べた。
「何があろうともな」
「そうですか、ではそれがしと共にですか」
「最後まで戦いそしてな」
「右大臣様を最後までおお護りする」
「そうしようか、茶々様もそれは絶対じゃ」
強情でしかも何もわかっておらず今の有様を招いた茶々にしてもというのだ。
「右大臣様はな」
「何としてもお護りする」
「その一念だけは絶対じゃ」
「母君であるからですな」
「そうじゃ、それはわしにもわかる」
「それがしもです、やはり母というものはです」
幸村は後藤に確かな声で述べた。
「何があろうとも子を護るもの」
「だからあの方もな」
「右大臣様をですな」
「お護りすることに異論はない」
「だからですな」
「このことは必ず認められる」
母としてというのだ。
「むしろあの情念が強過ぎる、それ故に今を豆いてもおるしな」
「その強さが裏目に出て」
「そうしたこともあるが」
後藤は政には疎いとされる武辺者とされている、その為何かと細かいところはわからぬと言われている。だが実は人の心のことにも通じている繊細な一面も持っている男である。それで今も言えるのである。
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