人狩りの夜 後日譚
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。……それと、俺は特務分室半分程度の強さなのか?」
「半分程度だという評価が不服? それとも思っていたよりも高評価だった?」
「……前者だ」
元の世界では京子を救うため、十二神将を退け、○○○を制した秋芳である。
おのれの強さにはそれなりの矜持はある。
「あははははっ! 言ってくれるわね。さすがはこのわたしを三十九回も投げ飛ばした人」
「投げ飛ばされた回数を勘定していたのかよ」
「もっと強くなって倍返しするためにね。それ、わたしにもちょうだい」
手渡された葡萄酒を逆さに、白い喉を上下させる。およそ貴人に似つかわしいとはいえない行為だが、その姿が実に様になっている。
「あなた、弓もできるの?」
「いや、不得手だ。弓は儀式で射る程度しかできない」
「ふぅん、本当かしら。ちょっと見せてみなさいよ」
「見せるもなにも本当に苦手で――」
レニリアは使い魔に弓と矢を取ってこさせて秋芳に無理やり引かせたが、その動きはぎこちなく、剣や格闘ほどの冴えはなかった。
止まった的にはなんとか当てることはできるが、動く標的にはほとんど当てられない。
「さすがのレイヴンにも苦手なものがあったのね。多才な男性だと思ったけど」
「多才な男性を定義できるか?」
「ええ。音楽の知識があり、詩を詠えて、書画に通じて、舞踊に優れ、外国語が堪能で、弓馬刀槍の技に秀でて、拳闘と魔術を習得し、学識豊かで兵法にも通じた男性よ」
「まるで『高慢と偏見』のダーシーのようなことを言う」
「いい、三本撃ちの秘訣は指を四本、その間に矢を挟んで手の平を返して射るのよ」
「いや、無理だから。バーフバリやホークアイじゃないから、複数撃ちとか無理!」
「次は乗馬ね。馬に乗るときは鐙なしでもこうすれば――」
夜は短いようで長い。
ダール・イ・レゼベールの精神のもと、レニリアは剣と格闘について教えてもらったお返しに秋芳に弓馬の術を伝授した。
「――女王陛下の福祉政策は根本的な解決になっていない。あまりにも上から目線、一方的すぎるんだ。あれではクェイド侯爵のような、かたよった考えの差別主義者が生まれてしまうのもしかたがない」
「あの男に理解をしめすの?」
「いいや、そうじゃない。過度の弱者救済、外国人優遇政策は保守層や既得権益者から煙たがられるのは当然だろう。それなりに納得のいく説明をしないといけないし、貧者が金持ちから施しを受けることが当然だと考えるようになれば、彼らは自立し、みずからの力で生きることをしなくなる――」
施す側の人間たちは自分たちが上の階層であることを、与えられる人間たちは自分たちが這い上がることのできない階層であることが普通だと認識する。
こうした一方的な『福祉』は実は身分制度を強化する役割もある。
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