姉想自慰
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美しい、と思った。
目の前で舞うように戦う姉の姿に、少年は見惚れていた――。
長い黒髪を後頭部でたばねて腰まで垂らし、巨大なブーメラン状の武器・飛来骨を小枝のように振るって群がる妖怪たちを次々と蹴散らすその姿は、まるで北欧神話の戦乙女か、あるいは戦いの女神アテナようだ。
凛々しく、美しい。だがそれ以上に――。
いやらしい。
特殊な素材で作られた黒いボディスーツを着て戦っているのだが、肌に密着して身体のラインをこれでもかと強調し、全身あやしく黒光りするコスチュームは見る者によっては卑猥に映る。
そう、たとえばここにいる思春期まっただ中な十四歳の少年のような者には、たまらなく淫らな姿だった。
「琥珀、ぼうっとするな! 一匹いったぞ」
「は、はいっ」
見惚れていた相手から急に叱咤されて我に返る。
接近してきた小鬼に鎖鎌についた分銅を放ち、巻きつけて引きずり倒した。
「ハッ!」
そこへ飛来骨が放たれ、押し潰した。無手になったのを好機と見たのか、妖怪たちが琥珀の姉に、珊瑚に殺到する。
「ふん、甘いよ」
腕に仕込まれた刃が飛び出し、妖怪たちを次々と切り刻む。最後の一体が斃されるのに、三分とかからなかった。
「ふぅ、思ったよりも数が多かったけど、たいして強くはなかったね」
「姉上が強すぎなんだよ」
「琥珀、おまえ戦闘中になにをボンヤリしていたんだ?」
「え? それは……」
姉上があんまり綺麗だったから見惚れていた。そんな恥ずかしいこと口にできるわけがない。
「そ、それはその……。あ、姉上の技がこの前よりも凄かったから、つい見入っちゃったんだ」
「べつにいつもと変わらないよ。……そう見えるってことはそれだけ鍛錬が足りてないってことだぞ。よし、琥珀。これから家に帰って戦闘訓練だ」
「え〜!? 今夜はもう妖怪退治したから、くたくただよ」
「なに言ってるんだ、妖怪はほとんど私がやっつけたんじゃないか。それに琥珀は男の子だし体力あるから、まだまだ余裕だろ」
誤魔化しの返答がどうやらとんだやぶ蛇になってしまったようだ。
人にあだなす悪霊や妖怪退治、邪な呪術師の討伐を生業とする忍びの一族。それがこの姉弟の出自であった。
伊賀忍者は体術に優れ、甲賀忍者は薬学が達者、雑賀衆は鉄砲や火薬をあつかう技術が巧みで、上杉の軒猿は他の忍者を狩るのが得意だったという。
忍びの一族にはそれぞれ得意とする技法や特色があるのだが、この姉弟の一族には妖の存在を誅する退魔の業が伝わっていた。
妖怪退治忍。そのように言われている。
「踏み込みが甘い!」
弟の中段突きを軽く受け流して、足を払い転倒させた珊瑚はそのまま寝技に持ち込む。
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