第70話『VS.魔王軍幹部』
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紅い月が地上を怪しく照らし、禍々しい空気が辺りに満ちていた。木々はざわめき、逆に生き物は営みを止めてひっそりとしている。
そんな環境の中、方向感覚すらも狂わせる程の濃霧に包まれ、伸太郎は身体的にも精神的にも衰退していた。
「炎が点かない・・・つまり、さっきよりも霧の水分が多くなっているんだ」
火の海で囲むことでミストを無力化できたかと思いきや、彼が今発生させた霧はこれまでと異なり、湿度がとても高い。触れるだけで、肌に水滴が付くほどだ。やはり"霧使い"と云うだけあって、変幻自在に霧を操れるらしい。
「くそッ、振り出しかよ!」
唯一の突破口を閉ざされ、再び霧の中に閉じ込められる伸太郎。先の一発で仕留められなかったことを、ここに来て後悔した。
「光は効かない、炎は点かない・・・マズいぞこれは」
魔術を完全に封印され、伸太郎にはもう打つ手が無い。このまま為す術なく倒されるのは嫌だが、対抗策が存在しないのだ。
「どうすりゃいい──うっ!?」
不満を嘆こうとしたその瞬間だった。腹部に重い衝撃を喰らい、後方へと吹き飛ばされる。どうやらミストは本気モードらしい。先程と明らかに蹴りの威力が違った。
「がはっ…これは──ぐっ!」
内臓が思い切り揺らされ、嘔吐感が込み上げる。だがそれを許す間もなく、ミストは伸太郎に攻撃を与え続ける。縦横無尽に四方八方から攻撃を加えるその動きは、もはや人間の域を越えていた。
そしてついに、伸太郎は膝をつく。
「……っ」
身体中に打撃を浴び、痛覚が麻痺してきた。口からは血やら何やらが零れかけ、もう意識も飛びそうである。
結果は最初からわかっていた。実力差は歴然だったのだ。さっきのはたまたま上手くいっただけ。現実は甘くないのだ。
思えば、今まで楽して生きてきた。学校なんて、勉強できればそれでどうにかなる。友達なんて必要ない。居たって足枷になるだけだ。そうしてずっと、孤独だった。
「……」スタッ
ミストが側に立ったのがわかった。霧の中だというのに、実に器用なものだ。トドメを差すつもりなのか。
伸太郎にはもう立ち上がる気力は残っていない。言ってしまえば、敗北を確信したからだ。一時の有利もすぐに覆される。そんな実力差を前に、どうしろというのだ。
「こふっ…」
恨み節の一つでも言いたいところだが、口から出るのは空気だけ。こんなに苦しいのは、生まれて初めてだ。怪我をした時も、病気だった時も、孤独だった時でさえも、ここまで苦ではなかった。なのに今は・・・苦しい。
「悪い……三浦」
友達・・・と呼んでいいのだろうか。彼は自分に親身に接してくれ、その優しさは
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