棺運びと猫
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屋に人が集まってるってぇのに女っ気がねえなあ」
喋って乾いた喉に茶を流し込んだ宍甘の旦那が、一息ついて口を開きやした。そんで、一瞬はっとした後ににやっとしたんですよ。
不味い、って思った時にはもう手遅れでした。
「お前、女ものの服着てみたらどうだ? その風体なら美人になるだろ?」
「アホなこというのはやめてくだせえよ!」
女装なんてとんでもない。そんな変な趣味、あっしにゃありやせんって。
宍甘の旦那があの顔をした時は、大抵変なこと考えてるんでさぁ……。
一連の茶番を、莞柳の旦那は黙って見てやした。表情一つ変えないほうが逆に怖いんですがね……。
「女なら、その中にいる」
急に口を開いたかと思えば、こっちはこっちで変な冗談を言う。旦那が示したのは、自分が運んできた棺。
すると変なところで調子にのる宍甘の旦那が、反応して棺の顔の部分をちょっと開いたんですよ。
その瞬間、旦那の顔が一変しやした。
棺から覗いたのは、美人とも醜いとも言えない、ごく普通で初老の女でした。
「どうした」
鋭く宍甘の旦那の顔に気づいた莞柳の旦那が、あっしの代わりに聞きやした。
「いや、ちょっとな……。こりゃ本当にたまげた」
「知った人なんですかい?」
さっきまでの空気は消え去って、旦那の顔には冷や汗まで浮かんでたんでさぁ。
宍甘の旦那は、丁寧に棺を閉めると、あっし達に向き合ったんです。
旦那が話したのは、もう十数年も前の話でした。
昔旦那が老舗の菓子屋をやってたのは、あっしもおふくろから聞かされてたことだったんですがね、それが潰れた理由までは知らなかったんですよ。旦那曰く、旦那の店が潰れた原因は、店に強盗が入ったからだと。
「この女、老けてはいるが、確かに俺の店に押し入った中にいた。あん時に捕まらなくて、もう二度と顔合わせるなんてねぇと思ってたんだがな」
普段見せないほどに、旦那は深刻な顔をしていやした。当然のことですわなあ。旦那は店が潰れてから、結構な数の苦労を乗り越えてきたんでさぁ。
「なるほど。奇縁、という奴だな。俺がこの女の死体を任されたのも、この道を通ったのも、全部自分で決めたことだ。あんただってそうだろう?」
ほうと一つ溜息をついて、莞柳の旦那は棺に目をやりやした。
確かに奇妙な縁、としか言いようのない話でさぁ。死に目に遭いながらもなんとかそれを乗り越えた宍甘の旦那と、旦那がそうなった遠因のある女が、長い年月の末ここでまた出会った。しかも片方は物言わぬ死人。
ここまでの偶然、あっしは見た事ねえ。
そんな風に驚いてると、突然物凄い風が吹いてきた。地面の砂が舞って目も開けられない、風圧に押さえつけられて身動きも取れない
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