巻ノ百三十二 講和その十一
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「武勲を挙げてみせましょうぞ」
「頼むぞ、しかしそう言える者もな」
「幕府ではですな」
「殆どいなくなったわ、旗本衆もじゃ」
家康を護ってきた彼等もというのだ。
「若い、戦を知らぬ者達も増えた」
「左様ですな、日増しにです」
「武が薄くなってきておるのう」
「泰平の世になれば」
この戦が終わりだ。
「もうです」
「わし等がいなくなればな」
「戦を知る者もいなくなり」
「幕府から三河武士はいなくなるか」
「そうなるでありましょう」
大久保は口惜し気に言った。
「間違いなく」
「お主にとっては無念じゃな」
「はい」
嘘を言わない大久保は確かな声で答えた。
「まさに」
「そうじゃな、ではな」
「はい、必ずやです」
「戦が続けば花を手に入れよ」
「そうしてみせます」
大久保は誓った、そして後で家康に呼ばれ二人だけになった時にこう言われた。
「お主には済まぬことをした」
「ご本家のことですか」
「お主を巻き込むつもりはなかったがな」
大名から一旦改易し旗本に落としたことだ、大久保は本家の罪に連座してそのうえでそうなってしまったのだ。
「しかしな」
「法、仕方なきこと」
「そう言ってくれるか」
「それがしが何故大御所様、そして上様を恨みましょうぞ」
三河武士である自身がというのだ。
「それは有り得ぬことです」
「だからか」
「はい、それはです」
決してというのだ。
「ありませぬ」
「左様か」
「ですからお気遣いは無用でござる」
「そうか、その心有り難く思う」
家康は大久保に瞑目する様に告げた。
「そなたの様な者を臣に持ってわしは果報者じゃ」
「有り難きお言葉」
「お主の様な臣を多く持って来た、だから天下人にもなれてじゃ」
そしてというのだ。
「今に至る、ではな」
「これよりですな」
「飲むか」
「酒ですか」
「三河の酒じゃ」
彼等の故郷の酒だった。
「それを飲むか」
「おお、三河の酒ですか」
「我等が若き日に飲んできた酒じゃ」
徳川家の故郷、そこのだ。
「ならばな」
「はい、共に」
大久保も笑顔で応えた、そしてだった。
家康と大久保は今は二人で三河の酒を楽しんだ。それは彼等にとっては若き日々を思い出す実に美味いものだった。その酒を大坂城を見つつ飲んだのだった。
巻ノ百三十二 完
2017・11・22
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